TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「気づいて」*モト様リクエスト&タイトル*

「土浦君、今度の演奏会に出るんでしょ。頑張ってね」
 放課後、土浦と一緒に練習を終えた帰り道、校門前でそんな声が土浦を呼び止めた。
 普通科の制服、色は赤。同級生らしいその女生徒は、少し上目遣いに土浦のことを見つめている。それが身長差ゆえのものだけではないことは、幾度となく見せられてきた俺にはすぐにわかった。
「あぁ、ありがとう」
 出せる限りの女の子らしさ全開で送られる秋波に対して土浦は笑顔で返事をし、目の前の女子の顔をうっすらと赤く染めさせていた。
 その笑顔に、俺の胸はものすごくざわついた。やっと俺にも笑顔を見せてくれるようになったばかりだというのに、その全開の笑顔を惜しみなく向けることにイライラと不安が募る。まして土浦は、その見上げる視線の意図にまったく気付いていない。
 端から見ればいい雰囲気に見えなくもないこの状態がなんだかものすごく腹立たしい。
「土浦…」
 感情は出来るだけ抑えて声を掛ければ、土浦は今、俺の存在に気付いたかのように振り返り、あぁと小さくつぶやいた。
「じゃあ、俺、帰るから。…月森、帰ろうぜ」
 一言そう言うと、その子との会話には何の未練もなさそうに土浦は歩き出した。まだ何か言いたげな女生徒の視線が変わって俺を睨んできたが、俺は見ないふりでそのまま歩き出した。
 土浦の言葉と態度に、ほんの少しだけ溜飲が下がる。
「でもなんか嬉しいよな、応援されるって」
 それなのに土浦はまたそんなことを言い出す。
「純粋に音楽を好きになってくれたのなら、それは喜ばしいことかもしれないが…」
 あの子の態度はそれだけではないだろうと言ってしまいたかったが、気付いていないのにわざわざ言って、その後で何かあったら嫌だと思い言葉を濁してしまう。別に土浦を信じていないわけではないが、かなり強引に俺の想いをぶつけて恋人同士になったという自覚があるからこそ、女子特有の恋愛にかけるパワーに土浦が圧されてしまうのではと危惧してしまう。
「なんだよ」
「必要以上の笑顔を見せることに注意を払ってくれ」
 中途半端なところで止まった言葉の続きを催促してきた土浦に、俺は続きよりも更にその先の希望を口に出した。笑顔を見せるな、とまではさすがに言えない。だが、気を付けてほしいとは思う。
「なんだよ急に」
 本当にわからないという顔を向けられ、どうしてわからないんだと思う。俺も恋愛関係に関して疎いと自覚はあるが、土浦も相当だと思う。
「君の笑顔に誰かが惹かれてしまうことは嫌なんだ」
 今の子みたいにと、そこは心の中だけでつぶやいた。
「ったく、何を言ってるんだか」
 土浦は一瞬、きょとんとした顔を見せて、今度は盛大に笑い出した。こんなにも楽しそうに笑う土浦の顔は魅力的だが、こちらの真剣な想いは伝わっていないのだろうから、微妙に複雑な気分だった。
 どうして、好きだから心配なのだということを土浦にわかってもらえないのだろうか。
 危機感を持ってくれ。女子には近付かないでくれ。俺にだけその笑顔を見せてくれ。心の中にひとつ、またひとつと願いは浮かんでくるのに、そのどれを口にしたところで土浦には取り合ってもらえないのだろうと口を閉ざした。
「さて、応援に応えるためにも頑張らなくっちゃな」
 それなのに、土浦ときたら笑顔でそんなことを言っている。
「それは俺を練習に誘っていると解釈して構わないのだろうか」
 他人の気持ちなんてどうでもいいから、俺の気持ちにこそ気付いて応えて欲しいと切に思いながら、土浦の言葉を都合よく解釈することにした。



2014.10
拍手第21弾その3。
頼むから無防備に笑わないでくれ。

リクエスト内容は「誰かから好意を寄せられているのに気付かない土浦と、
それを知って土浦にもっと警戒心を持ってほしい月森」
ということでこんなお話を仕上げてみました。
最初は後日の月森君話を書いたのですが、
いや、後日よりも当日のほうがいいだろうと書き直しした話だったりします。
 →ボツにした後日話(一部流用してるところがあります)