『音色のお茶会』
「キミトノキセキ」*リクエスト&タイトル*
好きだと自覚した。だがきっとこの気持ちを伝えることは出来ない。
最悪な第一印象を引きずって続いた俺と月森の関係も、何度もアンサンブルを組まされているうちに少しずつ軟化していった。
月森の演奏が巧いことは認めているし、そういう弾き方なのだと理解もしている。好きか嫌いかの二択ならばまだ嫌いに軍配は上がってしまうが、傾くどころか完全に振り切っていた針は、どちらかといえば嫌い寄り、というくらいにまで角度を緩めてきている。そして、演奏以外に関しての針は、逆方向に傾き始めているのだと、つい最近、自覚したばかりだった。
意見を言い合っているうちに相手を理解することを覚え、意外な一面、気付かなかった一面を知るうちに、もっと知りたい、理解したいと思うようになった。正反対過ぎるからこそ、自分にないものをたくさん見せられて、気になる気持ちは止められなかった。
言い合う回数が減り、普通の会話の回数は逆に増え、嫌いなはずの、合わないと思っていたはずのお互いの音さえ、今ではきれいなハーモニーを奏でるようになってきている。
距離が近くなればもっとと望んでしまうのが心情で、自覚した想いを告げてみたいとも思うのだが、万事うまくいく未来はどう考えても想像出来ず、むしろやっと普通の会話が出来るようになったこの関係が壊れてしまうような気がして、想いは心の奥底に閉じ込めることにした。
気付かれないようにと思えば思うほど接する態度はぎこちなくなり、せっかく近付いた距離がまた元通りの険悪なものになってしまう。嫌いじゃないのだと言えればいいのだが、その先にある好きという気持ちを言わずにはいられなくなりそうで、誤解を解くことすら出来ない。
こんな状態では想いを口にしてもしなくてもダメになっていくだけの様な気もするが、月森は離れていくどころか、なんとなく歩み寄ってきてくれているような気もする。ぎこちない俺の態度と同様に、月森もまた月森らしからぬ態度で俺に接しているような、そんな気がする。
月森の中にも何かしら変化はあるのだと感じれば嬉しくなり、それが俺と同じ想いならいいと高望みをし、だがそんなことは奇跡でも起きない限り無理だろうと浮いたり沈んだりを繰り返し、結論は沈んだところに行き着いてしまう。
だが本当に、奇跡は起きないのだろうか。
嫌いだと思っていた月森を好きになったこと自体、軽く奇跡に近い。それならば、月森が俺を好きになってくれる奇跡も、起こり得る可能性は絶対にないとは言えないのではないだろうか。
淡い期待を抱きながら、でもまだ今は、これ以上の贅沢など望んではいけないのだと自分を戒めた。
好きだと自覚した。
今はまだこの気持ちを伝えることは出来ない。
2014.7
拍手第21弾その4。
好きだからこそ…
リクエスト内容は「まだ告白前の土浦で、告白してしまったら今のいい関係が
崩れてしまいそうなのが怖くてお互い踏み出せないみたいな?」
ということで、じれじれのお話になりました。
こういう設定、大好きです^^
拍手第21弾その4。
好きだからこそ…
リクエスト内容は「まだ告白前の土浦で、告白してしまったら今のいい関係が
崩れてしまいそうなのが怖くてお互い踏み出せないみたいな?」
ということで、じれじれのお話になりました。
こういう設定、大好きです^^