TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「さっきから話が噛み合ってない」

 なんだか今までと違う意味で気になると思い始めたら、うまく会話を交わせなくなってしまった。
「今日はいい天気だな」
「鳥のさえずりも聞こえてくるしな」
「そういえば蝉が鳴かなくなったような気がする」
「朝晩はだいぶ涼しくなって、ちょっと淋しいよな」
 振られた天気の話も上手く返せなくて、何か同意以外の言葉を返そうとすればするほど、違う方向へ進んでいく。
 天気の話という共通点はあるものの、会話自体は微妙に噛み合っていない気がする。
「最近はどんな曲を練習してるんだ」
「今は次のアンサンブル曲を練習している。君は?」
「俺も次のアンサンブル曲だな」
 沈黙が耐えられなくて曲の話を振ってみたが、二人ともアンサンブルメンバーなのだから答えは言わずもがなだ。
 そうだよな、当たり前だよなと気付いても今更で、また沈黙が訪れてしまう。
「いい天気だな」
「最近、雨降らないな」
「曇っている日はだいぶ涼しくなったな」
「ホント、今日はいい天気だよな」
 また天気の話に戻ってしまい、そしてまた微妙に噛み合わない会話が続く。
 だけど会話を止めようとは思わない。なんでもいいから話していたいと思う。
 気になるなんて思っていなかった頃は、言葉は考えなくても出てきた。
 気にいらないと思っていた頃は、沈黙を気まずいなんて思わなかった。
「外で弾いたら気持ちがよさそうだ」
「外で、か…。いいな、ヴァイオリンはどこでも弾けて」
 言ってから、そんなつもりはなかったが、なんだか嫌味っぽくなったかもと焦る。
 なんでだろう。ケンカ腰の言葉なら、本当に何も考えなくてもスラスラ言える。
 なのに嫌味ではないのだと、本当にいいなと思っただけなのだと、弁解する言葉は考えていても出てこない。
「窓を開けて練習するのはどうだろうか」
 沈黙と後悔に押しつぶされそうになっていると、どこか遠慮がちな声が聞こえた。
「窓を開けて、もし、都合が合うなら、今日の放課後、一緒に練習をしよう」
 今度は必死な声が聞こえて、あぁ、もしかして同じだったのかと思う。
 噛み合わない会話も、続く沈黙も、気にしているのは俺だけじゃないのかもしれない。
 そう思ったら、なんだかすごく安心した。
「そうだな、一緒に練習しようぜ」
 俺は素直な気持ちのまま、言葉を返していた。



2014.9
拍手第21弾その2。
お互いに意識し始めた頃の二人

噛み合わない会話がうまく書けなくて難産でした。
読み返すと噛み合っているような気がするのは気付かなかったことに…。