TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「冷蔵庫の中身」

 ウィーンに留学した月森のもとを初めて訪れたのはその年の夏休みで、短期とはいえ外国暮らしをしたことがあったらしい月森は、思いのほかその街に馴染んだ生活を送っていた。
 部屋には必要最低限のものしか置いていなかったがそれは日本にいたときからで、ヴァイオリンを弾く環境さえ整っていればどこでも生活出来そうな感じがして、こっそり笑ってしまった。
 そして、まったくと言っていいほど使われていないキッチンにもまた、苦笑いを禁じ得ない。寒い季節ではなかったせいもあるのかもしれないが、お湯すら沸かしている気配がない。
 そうなれば更に気になるのが冷蔵庫の中身で、だが人の家の冷蔵庫を勝手に開けるのはさすがに悪い気がして開けはしなかったのだが、中身が入っていないどころか、コンセントすら差されていないという驚愕の事実をすぐに知ることとなった。
 月森が一人暮らしをしても料理なんてしないことは想定内だったが、まさか冷蔵庫を使ってもいないことにはさすがに驚かされた。
 どんだけエンゲル係数が高い生活を送ってるんだと言ってみれば、ちゃんと考えて生活していると返された。
 月森の言うちゃんとが何を差しているのかはわからないが、せめて寒くなる前にお湯くらいは沸かせるようになっておけと忠告はしておいた。

 それからちょうど1年、また夏休みを利用して月森のもとを訪ねれば相変わらずもののない部屋に出迎えられたが、キッチンには使われているらしいフライパンなどの調理器具が置いてあったし、冷蔵庫はちゃんとコンセントが繋がれていた。
 飲みかけのペットボトルを入れる口実で冷蔵庫を開ければ、水とバターとヨーグルト、そして卵と醤油が入っていた。
 俺だって簡単な料理くらい出来るのだと、ほんの少し口を尖らせてつぶやく月森が、なんだかかわいくて笑ってしまえば、その口は更に尖って拗ねた顔を見せる。
 簡単な卵料理の作り方でも教えてやろうかと言えば、作れた方がいいだろうかと真剣な顔で聞いてくる。どうやら前回、エンゲル係数が高過ぎると言ったことを気にしていたらしい。
 いつだって隙のなさそうな澄まし顔の月森の、こんな表情を見られるのは俺だけの特権だ。
 まぁ、簡単なものくらいはなと答えながら、でもなんでも出来るようになんてならないでくれと、そう言ったら月森は矛盾していると怒るだろうか。



2015.11
拍手第23弾その2。
一人暮らしの月森の部屋に訪問

楽しかった!書きながらすごく楽しかったです!
まぁ、ありがち設定ですけれど。
紅茶の書く土浦君は、月森君に甘過ぎると思います。