TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「平穏は取り戻せない」

 その悲しみに満ちた旋律を、感情の押しつけだと糾弾したのはまだ数か月前のことで、でも今はその、圧倒されるような感情の波の中にいることを、俺は心地よいとさえ感じている。
 俺とは違う解釈で、今まで聞いたどの演奏の解釈ともまた違う土浦の演奏に惹かれているのだと自覚した瞬間、目の前で光が弾けたような錯覚を覚えた。
 いや、弾けたのは光ではない。俺の心だ。
 それはまるで自分の中になかったものを引き出されるような感覚で、まっさらなそれに、土浦の奏でる旋律だけがしみ込んでくる。
 土浦の作り出す音色に、溺れていく。

 全力を出したのであろう、その、弾ききって満足そうな表情に胸がざわめく。
 土浦の演奏をもっと聴きたい。土浦の演奏と合せてみたい。土浦の演奏をもっと知りたい。
 聴き終わってなお、俺の心を捕えて離さない旋律の余韻を感じながら土浦を見遣れば、満足そうな笑みの口角をわずかに上げる仕草を見せる。
 その挑発的な表情に、胸のざわめきは明確な高鳴りへと変わる。

 演奏だけじゃない。土浦自身に惹かれているのだと自覚する。土浦のすべてが、俺を惹きつけてやまない。
 自分だけの音をひたすら追い求めていた今までの演奏では、この先、満足することなど出来ないし、どう弾いても俺は、土浦の演奏を意識してしまうだろう。
 そして土浦の演奏を冷静に聴くことも、土浦に対して冷静な態度を貫くことも出来ないだろう。
 気持ちも意識も、俺の何もかもすべてが土浦へと向かっている。土浦のすべてを知りたいし、自分のものにしたいと思う。
 もう、土浦を知らなかった頃の自分には戻れない。進むべき道を辿るだけの平穏な毎日には、もう戻れない。



2015.10.28-11.2 拍手第23弾その1。
土浦を好きだと自覚した月森

何度も書いている自覚話で相変わらずな月森君。
ちょっと無理やりお題に寄せた感が強めかなと反省。