『音色のお茶会』
「問題だらけのアンサンブル」
「まだケンカしてるの?」休み時間に廊下で会った日野に開口一番そう言われ、少し恨みがましい目で見られた。
誰と、なんて聞くまでもなく思い出すのは月森の顔で、俺は眉間に皺が刻まれたことを自覚する。
「してるんだ」
そんな俺の表情を見た日野は、俺が答える前に大きなためいきと一緒にそうつぶやいた。
クリスマスに向けてのコンサートで日野の組んだアンサンブルに誘われ、俺と月森は一緒に参加している。学内コンクールで出会い、犬猿の仲を経た俺たちは、実は今では恋人同士だったりする。
同じアンサンブルメンバーということで公然と一緒に行動出来る機会も多く、でもだからこそみんなにバレないように慎重に行動しなくてはいけないのに、みんなが集まる予定の練習室で、こともあろうに月森がキスしてこようとしたことがケンカの原因だった。
「せっかくいい感じに仕上がってきたのに。二人とも歩み寄ってくれたんだって思ってたんだよ」
周りからすれば俺たちがケンカしていることなど日常茶飯事過ぎて気にしていなかったようだが、あまりにも俺が態度を軟化させないことに日野は痺れを切らしたらしい。
俺たちが付き合っていることもケンカの原因も知らない日野は、恨めしそうな顔で俺を見上げている。
そういえばあのとき月森は、俺と日野が仲良くしているのが気に入らないとかなんとか言っていたと思い出し、あれはもしかしたらヤキモチとか独占欲とかそういったものだったのだろうかとも思う。
歩み寄り過ぎて新たな問題が発生しているなんて、日野は思いもしないだろう。俺だって月森がヤキモチを焼くなんて思ってもいなかったし、ケンカなんて当たり前過ぎてどうやって月森と仲直りしたらいいのかわからなくなるとは思わなかったし、でも許したらまた学院内で何かしてきそうだしそれは困るし、気付けばここでもまた新しい問題が発生してしまっていた。
「とにかく、早く仲直りしてね」
クリスマスまでにアンサンブルをまとめて曲を完成させたい日野にとって、今一番の不安材料は俺と月森のことだろう。仲直りという言葉を使われ、そしてさっきまでとは打って変わって心配そうな表情をされると、どう答えていいのかわからなくなる。
本当に仲が悪かった頃も俺と月森が含まれるアンサンブルは仕上がるのに時間がかかったが、今の状況のほうがあの頃よりももっと悪くなってるんじゃないかと、ふとそんな風に思ってしまう。
まずは月森とどうやって仲直りしようかと、俺は放課後までずっと悩まされることとなった。
2015.2
拍手第22弾その3。
付き合っているけど喧嘩中
喧嘩の原因が原因だけに後に引けなくなっている土浦君。
月森君も謝らなさそうですよね、この原因だと…(苦笑)
拍手第22弾その3。
付き合っているけど喧嘩中
喧嘩の原因が原因だけに後に引けなくなっている土浦君。
月森君も謝らなさそうですよね、この原因だと…(苦笑)