TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「蜜月」

 引っ越しを終えたその夜、まだ慣れない空間の中、俺は慣れ親しんだぬくもりを腕の中に抱き締めた。
「なんだよ、急に」
 どちらかといえば、べたべたとくっつくことをあまり好まない土浦から、相変わらずな言葉が返される。
「たまには、いいだろう」
 俺も普段はなんでもないときに抱き締めたりはしないのだが、今日くらいはいいだろうと思う。

 土浦とは犬猿の仲を経て高校生の頃に恋人同士になった。
 留学のために遠距離恋愛も経験し、離れていることで生じる誤解が原因で幾度となく喧嘩もしたが、それが別れ話に発展することはなかった。
 お互い社会人になり、自立した生活が出来るようになったことを機に、俺たちは一緒に住むことを決めた。
 結婚という世間的に認められた約束事を交わすことは出来ないが、一緒に暮らそうと考えた根底にある気持ちは、それと何ら変わるものではなかった。

 抱き締める腕に力を込めれば、仕方ないなといった風に土浦からの腕がそっと背に回る。
「これからずっと一緒にいられるのに?」
 自然と近くなった耳元に、土浦はささやくような声を落としてくる。
「今日はその記念すべき1日目だ」
 だから俺も土浦の耳元に、ささやき声とともに小さなキスを落とした。
「っん、って、くすぐったいだろ」
 お返しと言わんばかりに、土浦の歯が俺の耳たぶに軽く触れてくる。
 そんなささやかな触れ合いが、今日はとても愛おしい。

 お互いの家に泊まったことはもちろんある。そして幾度も同じ夜を過ごしてきた。
 だが帰らなければならない場所は別々で、それを淋しいと思う気持ちはいつも心のどこかにあった。
 だから一緒に暮らせることを、たとえ長期で家を空けることがお互い多いのだとしても、本当に嬉しいと思う。
 同じ場所に帰る、帰りを待つ、帰りを待ってくれる、そんな場所を手に入れたことを、本当に幸せだと思う。

 顔が見たくてほんの少し腕を緩めれば、意図を察した土浦の腕も緩む。
「これからも、よろしく」
 真っ直ぐに見つめて、触れるだけの小さなキスをひとつ落とす。
「こちらこそ、よろしくな」
 土浦からも小さな音を立てて唇が触れてきた。
 見つめ合って、小さく笑って、今度は触れるだけではない深い深いキスをした。



2014.10
拍手第21弾その7。
一緒に暮らし始めた二人。

本当はもっとイチャイチャさせたかったのですが
拍手だしと思っていたらなんだか微妙な感じになってしまいました。
タイトルに偽りありかしら…。