TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「得てしてそんなものだろう」

 森の広場の木陰で昼寝をしていたら、すぐ側で言い合いを始めたらしい険のある声に起こされた。
 うっすらと目を開ければ、そこにはここ最近、よく同じような現場を見かける二人の生徒が目に入った。
(確か音楽科の月森と普通科の土浦…だっけか?)
 記憶を手繰りながらもう一度目をつぶり、嫌でも聞こえてくるその言い合いの内容になんとなく耳を傾けた。
 言い合いの内容はどうやら音楽に関するものらしく時々知らない単語が混ざるが、概ね要約すれば気に入らないとか同意できないとか違うとかどうしてとか、つまりはお互いのあれこれが違い過ぎてうまくいっていないと、そんな感じなのだろう。
(嫌いなら一緒に演奏しようとか思わなければいいのに…)
 いつまでたっても平行線でどちらも折れそうにない言い合いを聞いていると、音楽のことはよくわからないから思わずそんな風に思ってしまう。
 嫌いなら嫌いで切り捨ててしまえば楽だろう。なんで喧嘩してまで一緒に同じものを作り上げようとするのだろうか。
(あぁ、でも、学校っていう集団生活の中じゃ簡単に切り捨てられるものじゃないよな)
 同じものを目指していればなおさら、仲が悪いのならば我慢や歩み寄りも強いられるのだろう。それにたぶん、切磋琢磨とかライバルとか、そういうも必要だったりするのではないだろうか。
(それに、喧嘩するほど仲がいいって言うしな)
 そんな風に考えていると、言い合っていたはずの二人の声がピタリと止んで静かになった。どうしたのだろうとそっと目を開けてみれば、二人ともさっきまでの険しい表情ではなくなっていて、更にどうしたんだろうと思う。
「悪かった…」
「俺も、すまなかった…」
 するとそんな言葉がお互いの口から発せられ、また妙な沈黙が訪れた。
(あー…。これが夫婦喧嘩は犬も食わないってやつか)
 もともと、仲介なんてする気はさらさらなかったが(だって知り合いじゃないし)、もうこの二人にとっての言い合いは普段の会話みたいなものなんだろうという気がしてきた(知り合いじゃないから勝手な想像だけど)。
 些細な理由で言い合って、些細なきっかけで仲直りして、感情的に嫌いって言ってみたって、きっと本心はそんなに嫌いじゃないってやつだ。
(ま、嫌よ嫌よも好きのうちって言うしな)
 得てして仲の悪い二人なんてそんなもんだと、相変わらず妙な沈黙を作っている二人から目を逸らし、そろそろ帰るかと枕代わりのカバンを持って帰路へと就くことにした。



2014.5
拍手第18段その4。
ケンカ中の二人に遭遇した誰か

誰かを誰にしようか悩んだ末に、
そのまま「誰か」にしてしまいました。
傍から見たら、こんな感じかなぁと。