TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「熨斗を付けて返してやる」

 それは本当にとても些細なことで始まったケンカだった。
 些細というかいつも通りというか、俺と月森の間ではもう、何度となく繰り返してきた些細な言い合い。
 ここの弾き方は、ここの流れは、こうしたほうが、それではだめだ、だからさっき、そうじゃない、それじゃだめだ、・・・。
 やっと歩み寄ることを覚え、いいところを認め合い、音楽のみならずお互いを好きになったというのに、繰り返される主張が止まらなくて、またケンカになってしまった。
 言葉の応酬が途切れれば無言のにらみ合いが続き、何の進展もないことにため息が落ちるタイミングがピッタリと重なる。
「「だから、」」
 そしてまた、口を開くタイミングも言葉も重なって、同時に口をつぐむ。
 仲がいいんだか悪いんだか。いや、ケンカするんだから仲が悪いのか。でもケンカするほど仲がいいとも言うからいいとも言えなくはないかもしれない。
「本当に君は融通が利かないな」
「それはお前だろう。少しは人の意見も聞けよ」
「頭ごなしに否定するのはどこの誰だ」
「俺がいつ否定したって言うんだよ」
「今、この会話で否定していないとでも?」
「融通が利かないって、最初に否定したのはお前じゃないか」
 もう、言い合い始めた最初のきっかけがわからなくなる。お互いに対して同じ文句を言い合うだけになる。自分の意見が正しいと思うから、後には全然引けなくなる。
「「だから!」」
 また同じ言葉が異口同音で重なり、今度はお互いの視線も重なり合う。
 真っ直ぐで揺るぎない瞳には、真っ直ぐ睨み返す俺の顔が映っているのだろう。
 そう思った瞬間、過熱する一方だった気持ちから熱がすぅっと下がっていく。冷めるわけではなく、ちょうど良い温度で見つめられるようになる。
「どうして俺たちはうまくいかないんだろうな」
 自嘲にも似たつぶやきの後で、月森の指がそっと頬を掠める。
「だが、好きなんだ、どうしようもなく」
 真っ直ぐ、真剣な顔で告げられて違う熱が上がる。
 ついさっきまでケンカをしていたくせに、いやもしかしたらケンカをしていたからこそなのかもしれないが、こんな風に正反対の気持ちを向けてくることを、なんでもなく気持ちを言葉に出来る月森をずるいと思う。
「その言葉、そっくりそのまま熨斗を付けて返してやる」
 言葉で示すのと態度で示すのはどっちが恥ずかしいんだろうと思いながら、俺は熨斗という名のキスをつけて月森に気持ちを返した。



2014.2
拍手第19弾その3。
些細なことでケンカ中で

まだ付き合う前の気持ちにすら気付いていない
ある意味本来のLRっぽい話にしようとも思っていたのですが、
結局、ただのケンカップルになってしまいました(笑)
書きながら話の落とし所で悩みましたが
熨斗のオチが思い付いてからは、一気に書き上げられました^^