TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「落下」

 目が合った瞬間に、頭のてっぺんからつま先まで、一気に衝撃が走った。
 その、まるで危険を知らせるような激しさに動揺した。
 だから必要以上に険悪な態度で接することで自分の身を守ろうとした。

 その態度が気に入らない。なぜ俺に対しては笑ってくれないのだろう。
 その解釈が受け入れられない。なぜいつも俺と反対の解釈をするのだろう。
 その音色にイライラさせられる。なぜ俺はこの音色に惹かれてしまうのだろう。

 揺るぎない視線、未来を見据える真剣な表情、音楽に対する真摯な態度。
 耳に心地好い声、聞き間違うことのない音色、重なり合い紡がれる旋律。

 色々な理由をつけて距離を保とうとすればするほど、その存在が心に焼き付けられていく。
 流れ行く日々と同じ速さで、それは少しずつ少しずつ降り積もっていく。
 手を伸ばしたくて、でも伸ばせなくて、手に入れたくて、でも届かない。

 その人となりを知って、心が惹き付けられていく。
 その音色に込められた思いを知って、心が揺らいでいく。
 知れば知るほど、心の中に知らなかった感情が溢れていく。

 ゆっくりと、だが確実に、俺は恋に落ちているのだと自覚する。
 惹かれることを怖れて避け、避けてなお惹かれて止まない。
 何処まで落ちて、何処に辿り着くのだろうか。
 だが、落ちるなら共に、落ちるなら何処まででも。

 目が合った瞬間に、俺は恋に落ちていた。
 ゆっくりと、だが、確実に。



2013.5
拍手第18段その4。
恋に落ちる様

わりと早いうちに書き上げて、でも何か違う気がして
半分くらい書き直してこの形になりました。
落ちる様、というより、落ちている様かもしれないです。