『音色のお茶会』
「悩みの数だけ」
人を好きになるということは、いいことばかりではない。楽しさと幸せと嬉しさと、同じ数の悩みと嫉妬と淋しさがそこにはある。
好きだとそう言って抱き締めれば幸せで、だが、いつまでも抱き締めていられるわけではなく、いつだって離れなければいけない時間はすぐにやってきてしまう。
あと少し、あともう少しとその時間を引き延ばして抱き締める腕に力を込めれば、腕の中の土浦から小さな震えが伝わってくる。
「土浦?」
どうしたのだろうと声を掛ければ、くすくすと小さな笑い声が聞こえてきた。
「月森って…」
言いかけて、続きは言わずにまた笑い始めた土浦に、もしかすると呆れられたのだろうかとほんの少しだけ腕の力を緩めれば、一瞬驚いたように顔を上げ、でもまたすぐに声を立てて笑い出した。
土浦と俺は、順風満帆にここまで来た訳ではなかった。出会ったばかりの頃は本当に言い合いばかりを繰り返していたし、好きなのだと気付いてもなかなか認められない期間はお互いに長く、未だにどこか素直になれない態度で不安にさせたり怒らせたりすることもあった。
だから土浦が見せる態度に一喜一憂し、心を揺らされてしまう。
「ホント、ギャップがすごいよな」
やっと笑いが治まったらしい土浦に、それでもまだ少し笑いの混ざった声でそう言われ、 どういうことだろうかと首を傾げた。
「いや、こっちの話」
だが土浦は答えてはくれず、楽しそうに俺を見ているだけだった。疑問は残るものの、こんな笑顔を見せてくれるのは嬉しいと思う。
以前は土浦の考えていることがわからなくてイライラするばかりだったが、今はわからないことさえも土浦を好きになる要素となる。
わからないから知りたい。いいことも悪いことも、君のすべてを知りたい。知れば知るほど、君を好きになる。
好きだだから不安になるし、悩むからこそ愛しくなるのかもしれない。
「土浦… 」
俺は解いてしまった腕をもう一度、そっと土浦へと伸ばす。
「今日は帰したくない…」
本音を口に出せば、土浦の驚き顔はすぐに鮮やかな赤へと染まっていった。
「ホント、お前って…」
その顔を隠すように肩口へと埋め、そしてつぶやかれた言葉の意味はやっぱり俺にはわからなかったが、その行動を了承と受け止め、回した腕に力を込めて土浦をぎゅっと抱き締めた。
2013.6
拍手第18段その3。
甘い感じで
甘い感じは大得意!
でも、タイトルに沿わせるのがちょっと大変でした。
R視点で書いても面白そうな気がします。
拍手第18段その3。
甘い感じで
甘い感じは大得意!
でも、タイトルに沿わせるのがちょっと大変でした。
R視点で書いても面白そうな気がします。