『音色のお茶会』
「無理難題を押し付けられた」
「じゃあ、月森君と土浦君はこの曲でお願いね」にこやかに、そしてどこか楽しそうに日野は俺たちに楽譜を差し出してきた。
「本当にこの曲にするのか…?」
「この選曲はちょっと…」
二人揃ってそれぞれ遠回しに拒否の言葉を告げてみるが、日野の笑顔は増すばかりでこちらの意図は汲んでくれそうにない。
「いつも通りじゃつまらないもの。意外性がある方が楽しいんじゃないかって土浦君も言ってたし、月森君もそれには反対しなかったよね」
だから文句は受け付けませんと、その笑顔はそう言っている。
「それとも自信ないとか?」
「「そんなことあるわけないだろ」」
日野の挑発的な言葉に、思わず二人の声が重なる。
「じゃ、決定ね。ふふふ、楽しみ~」
語尾にハートでも飛びそうな満面の笑みに、思わずとはいえ簡単に挑発へと乗せられてしまったことを今更ながらに後悔する。
笑顔の日野が去れば、どうしたものかと楽譜をみつめたまま思案に暮れる俺たちだけが取り残される。
「どうする?」
「どうすると言われても、あの様子では違う曲に変えてもらうのは無理そうだ。弾くしかないだろう」
「確かに…。なぁ、実際のところ、この曲、どう思う?」
手元の楽譜は日野曰く『結婚式での定番曲』であるらしい。CMなどでも使われている、有名でよく耳にする曲だ。
「甘い曲だな」
「それだけかよ」
「それなら君はどう思うんだ?」
「…。甘い曲…かな」
タイトルに「愛」が含まれてしまうような甘い曲など、おおよそ俺たちが演奏するには似つかわしくない。いや、似合っていると思われたら、たぶん困る。
「君と一緒に弾いたら…確かに意外性はあるだろうな」
「あり過ぎてみんなビックリするだろうな」
「ただ…この曲を弾いたら音色に想いを込めないことなど出来そうにないんだが…」
周りから犬猿の仲だと思われている俺たちは今、実はそんなに仲が悪くない。悪くないというか、いいというか、実のところ恋人同士だったりする。
反発心と、それでも認めざるを得ない演奏力に惹かれ、気が付けばお互いがお互いに想いを寄せていた。
「いやいや、そこは隠してくれ。そんな音色なんか聴かされたら…」
「困るか?」
「いや、だから、困るっていうか、俺も隠し通す自信がなくなるっていうか…」
二人の関係を公言出来ない事情が諸々あり過ぎて、そしてどんな関係になってもなくならない反発心から、俺たちは相変わらず仲の悪そうな態度を取り合っていた。
「この演奏を機に、少し歩み寄ったと、そう思わせるいい機会ではないだろうか」
「お前って、案外ポジティブだったんだな」
「君と一緒にいると、不思議と前向きになれるんだ」
「まぁ、悩んだところで仕方ないか」
どんな困難なことも、一緒ならば乗り越えていかれるかもしれないなんて、そんな風に思う日が来るとは考えたこともなかった。
「じゃ、早速、練習を始めるとしますか」
「そうだな」
さすがに、開き直って思い切り甘い演奏を、とまでは思えないが、日野の期待をいい意味で裏切る演奏をしてやろうと思った。
2013.6
拍手第18段その5。
香穂子から二人へのお願いとは
どんなお願いにしようか悩んで悩んで、
結局、無難なお願いにしてしまいました。
香穂子はわかってやっているのかなぁ…。
というわけで、つねならむ、でした。
基本的に甘い感じのお話たちになりました。
タイトルと内容から少しずれ気味なのが反省点です…。
拍手第18段その5。
香穂子から二人へのお願いとは
どんなお願いにしようか悩んで悩んで、
結局、無難なお願いにしてしまいました。
香穂子はわかってやっているのかなぁ…。
というわけで、つねならむ、でした。
基本的に甘い感じのお話たちになりました。
タイトルと内容から少しずれ気味なのが反省点です…。