TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「ためいき量産中」

 日曜日の朝10時に駅前の噴水のところ。
 そんないかにもな場所で待ち合わせをし、俺はその相手を待ちながらためいきをひとつ落とした。
 待ち合わせが嫌なわけじゃない。いや、むしろすごく嬉しいし、すごく楽しみだ。
 なのだが、だからこそためいきがさっきから止まらない。

 待ち合わせの相手である月森とは、1ヶ月ほど前に、いわゆる恋人同士になった。
 今日は二人でコンサートを聴きにいく予定になっている。開演時間は夕方で、せっかくだからそれまでどこかに行こうということになってこの時間に待ち合わせをすることになった。
 放課後の寄り道は何度かしたことがあったが、こんな風に待ち合わせをして出掛けるのは初めてで、つまり、今日はいわゆるデートというやつになるのかもしれない。
 だからこそ、変に緊張してそわそわして、そんな自分が嫌だからためいきばかりがこぼれてしまう。

 もしかしたら連絡が来るかもしれないとポケットの中でケータイを握り締め、少し高い位置にある時計をじっと見上げて立っている。
 人の近付く気配に思わず視線を動かしてみてもそこに月森の姿は映らず、俺と同じように待ち合わせをしていた人の顔触れが変わっていくことにまた、ためいきが落ちる。
 そんな、いかにも待ち合わせをしてます、相手が来なくて待ちぼうけを喰らってます、みたいな態度を自分がとっていることもまた嫌で視線を時計から外してみたが、今度は何を見ていいかわからなくて視線が彷徨ってしまう。
 月森が来るのであろう方向をじっと見ているのも変な気がするし、キョロキョロするのは挙動不審過ぎる。
 普通に立っていればいいとわかっているのに、その普通がわからないし、今までどうやって人を待っていたのかも全く思い出せない。

 結局、壁にもたれかかって腕を組み、映る世界を遮断するように目を閉じた。
 視界を閉ざせば今度は音が気になり、さすがにこの雑踏の中で特定の足音を拾うことは無理だし、足音なんて憶えていないと思いながらも耳をそばだててしまう。
 そうすると、その性格を表すような真っ直ぐな姿勢の月森が脳裏に浮かび、コツコツと聞こえるはずのない足音まで頭の中に響き始めた。
 その姿が目の前に迫ってきて俺は更にぎゅっと目をつぶるが、当たり前だが特に何も起こらない。
 何を期待して、そして何を思い出して目をつぶったのか自分で思い当たり、それが恥ずかしくて小さく頭を振って脳裏にある映像を吹き飛ばした。
 目をつぶっているのも心臓に悪い気がして、俺は目をそっと開いてまたためいきをひとつ落とした。

 たかが待ち合わせで、俺はどうしてこんなにも月森に振り回されているのだろうか。
 だが、月森だからこそ振り回されているのだと自分でも実のところ気付いている。
 その相手が月森だから、その相手が好きな人だから、俺はこんなにも振り回されて、自分の気持ちを持て余してしまっている。

 時計を見上げれば、その針はまだ9時半を差している。
 ここに立ってからちょうど30分。そして待ち合わせ時間まで同じく30分。
 なんで1時間も早く着いてしまったんだろうなんて、考えたって今更だ。
 まだしばらくグルグルしなくてはいけないのだと思えばまたためいきが落ち、早く来いと心の中で月森に文句を言ってみた。



2013.2
拍手第17段その4。
好き過ぎてグルグル中

土浦君が相変わらずの別人二十八号です(苦笑)
でも、相手があの月森君なのだから
このくらい振り回されてもいいよねって思うのですよ。