TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「酔っ払いの言うことなんか」

 月森と演奏会を聴きに行った帰り、俺たちは珍しく二人で飲みに行った。
 高校の卒業前に月森が留学してからは特に交流がなかったが、数年前に偶然再会してからは、同じ業界内の仲間程度の付き合いが続いていた。
「ホント、今日はサンキューな」
 だから二人で出掛けたことは一度もなかったが、今日の演奏会に誘ってくれたのは月森だった。
 いつか生で聴いてみたいと思っていた楽団だったが、そのチケットを手に入れることはなかなか難しく、だから月森が誘ってくれたことを本当に嬉しいと思っていた。 
「いつか俺もあんな風に演奏を纏め上げてみたいな」
 音色と指揮の一体感に、自分はまだまだなんだと思い知らされた。だがそれを悔しいと思う以上に、ただもうここを目指したいという明確な目標に対する感動と憧憬に歓喜する気持ちでいっぱいだった。
「本当に聴けてよかった。月森、本当にありがとう」
 思ったよりもずっと素晴らしい演奏だったことに気分は高揚しっぱなしで、楽しくて嬉しくてしょうがない。
「喜んでもらえて俺も嬉しいが、お礼はもう何度も聞いた。気にしないでくれ」
 月森らしいその物言いが、今日は何故だか全然、気に障らない。むしろ、月森も嬉しく思っているなら嬉しいと、そんな風に思ってしまう。
「でも、なんで急に俺なんか誘ったんだ?」
 ふと、不思議に思って聞いてみる。
 高校の頃みたいに言い合うわけではないが、俺と月森は演奏に対する解釈がやっぱり少し違う。だから誘うならもっと気の合うヤツのほうがよかったんじゃないかと思う。
「土浦が聴きたいと言っていたのを憶えていたんだ。だから君を誘ったんだが…俺と一緒では楽しくなかっただろうか」
 その言葉にドキッとする。月森との会話で、この楽団の名を口に出した覚えはない。ということは、会話ではない雑談かつぶやきを月森が覚えていてくれたということだ。
「いや、すごく楽しかったし嬉しかったけど…。っていうか、なんだよ、それ。そんな口説き文句みたいな台詞、月森には似合わないだろう」
 やけに心臓がドキドキして、言われた言葉が妙に嬉しくて、思わずそれを誤魔化すような言葉を選び出す。
「口説かれてるとか、いや、そんなことあるわけないし、でもそうだったら嬉しいとか、いや、まさかそんなこと、思ってるわけじゃないからな」
 そう口にしながら、俺は何を言っているんだろうと思う。なんだか言わなくていいことまで口走ってないだろうか。
「そうだ、お前、酔ってるんだな。だから俺にそんなこと…」
 言いながら、酔っているのは自分かもしれないと思った。なんとなく、いつもより少し速いペースでグラスを空けていたような自覚はある。
「酔っているのは君だ」
 そう月森に指摘され、やっぱりと思うと同時に少し気持ちが冷静になる。冷静になって自分の言葉を思い返し、やっぱりとんでもないことを口走ったのだと気付いて急に顔が熱くなった。
 真っ直ぐな視線で月森に見つめられ、鼓動が必要以上に早くなる。一旦は落ち着いたはずの気持ちが、もうどうやっても治まらずにどんどん高鳴っていく。
「酔っ払いの言葉を真に受けるほど俺も馬鹿ではないが…。もしもその無意識の言葉が本心なら、今度また俺が誘ったときにその答えを聞かせてくれ」
 それこそ俺だって酔っ払いの言うことなんか信じるわけないとか、その答えって言われたって俺はまだ何も言われてないとか、そんなことをグルグル考えながら、それでも俺は小さくひとつ、頷いていた。



2013.2
拍手第17段その3。
二人で飲み会

また両片思いな感じで飲み会をさせてしまいました。
両思いな二人での飲み会ってどんな感じだろうと、
今更ちょっと妄想中です(ふふふ)