TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「抜き差しならない状況で」

 俺たち二人以外、誰も居ない放課後の練習室。
 たぶん入り口のドアからも外に面した窓からも死角になるのであろうその場所で、目の前の月森と背後の壁に挟まれて身動きの取れないという、どう考えても色々とピンチ過ぎるこの状況。
 ついさっきまで普通に練習していたはずで、別にこんな場所に追い込まれるような雰囲気でもなかったはずで、どうしてこんな状況になってしまったのか俺にもよくわからない。
 わからないが月森の目は冗談とは思えないくらい真剣で、まさかこれが初めて見る月森が冗談を言っているところなんだろうかと頭は現実逃避を始めそうになる。
 いや、現実逃避をしている暇などあるはずもなく、どこにも逃げ場がなくなった俺と月森の距離はもう、触れるか触れないかというところまで迫っている。
 なんでとか待てとかどうしてとか、思い付く限りの言葉を声に出していた気がするが、そのどれもが月森を止める決定打にはならず、言葉がダメなら態度で示そうと伸ばした手すら月森の手に押さえ込まれてしまい、俺にはもう抵抗する手段がなくなってしまった。
 焦点など合わないほどに月森の顔が近付いて、それから逃げる手段を考えて、俺はとっさに目をつぶってしまう。
「土浦…」
 瞬間、小さくささやかれた俺の名前は耳だけではなく、吐息として唇でも感じさせられた。
「月、森…」
 もうダメだ。もう逃げられない。
 瞬間、触れてきた唇に、ささやいたその名前も俺の抵抗も、何もかもすべてが奪われていった。



2012.12
拍手第16段その3。
タジタジな状態に追い込まれ…

もう少しタジタジさせる予定が、
結構早いうちに落とされてしまいました…。