TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「鈍いにもほどがある」

「好きです、土浦先輩」
 放課後の夕日が差し込むロマンティックな雰囲気の大きな窓の前に。
 そんな夕焼けよりも顔を真っ赤にした1年生の女の子と、困り顔というか驚き顔の土浦という二人の姿。
 そして夕日の差し込まない少し離れた廊下の隅に、それを目撃してしまったらしい月森の姿。
 更に、もう少し離れたところとはいえ、そんな不思議な組み合わせの現場に居合わせてしまった僕。

「土浦、すまない。アンサンブルの件で話があるんだが」
 告白をした女の子よりも告白を受けた土浦よりも、最初に行動を起こしたのはそれを見ていた月森だった。
 傍から見ていてなんともくすぐったくなるようなはずの告白の現場に、そう言って無遠慮に入り込んでいく。
 僕にも女の子の声は聞こえてきたのだから、更に近いところにいた月森にもその声は聞こえているはずで。
 つまり、二人の間に立ち入ってはいけない雰囲気が醸し出されていたはずなのに。
 月森は気にすることなく、むしろ邪魔をする勢いで割り込んで行ったような気がする。

「あ、あぁ。なんだ、月森か。いや、そうじゃなくて…。ごめん、俺、そういうの考えたことなくて…」
 突然の乱入者に土浦は更に驚き顔で、それでも告白に対する返事をすることは忘れていなかったらしい。
 なんだ、断っちゃうんだ。そうなんだ。
 一方、告白をした女の子も驚き顔で、でも土浦の言葉を聞いてしゅんと俯いてしまう。
 そしてお辞儀をするようにぺこりと頭を下げると、ぎゅっと鞄を抱き締めてそのまま走り去ってしまった。
 なんだろう、見ているだけの僕の方が居た堪れない気分になってくるよ。

「で、話ってなんだよ」
 さぞや不機嫌な顔をしているだろうなって思った土浦の顔は、普段とさして変わっていない。
 もちろん笑顔のわけではないけれど、いつも土浦が月森に見せている顔をしている。
 あの場をこんな風に割り込まれたら、最初から断るつもりだったにしてもいい気はしないと思うのだけど。
 もしかして、深刻な雰囲気にならなくて済んだって思っているとか?

「明日の放課後、全員で合わせてみようと日野が言っていた」
 って、用件がそれだけなら、別に割り込んでまでわざわざ言うことでもないだろうに。
 そう思う僕とは対照的に、土浦の表情も返答も何事もなかったようにいつも通りだ。
 月森といえば普段より更に不機嫌そうに見えていた表情が、今はどこか安心したような表情にも見える。
 あれ? これってどういうことなんだるう? もしかして僕は何か重要なことを見落としていたりする?

 告白をされた土浦。それを邪魔した月森。告白を断った土浦。それを安心した月森…?
 それってつまり、月森の、嫉妬…、ってこと?
 でも、あの二人って仲悪いよね。ライバルっていうのとも違う感じに仲が悪いよね?
 ってことは、月森の行動は無自覚…、だったりする?
 え、それじゃあ、土浦の態度はどういうこと……ってもしかして、土浦も無自覚だったりする…とか?
 そう思い付いて、僕はその場で大きくため息を吐いた。
「あの二人、鈍いにもほどがあるよ…」



2012.10
拍手第15段その4。
まぁ、この先の展開がちょっと楽しみだけどね。
(土浦が告白されている場面に遭遇した月森の行動とは?)

他にいただいていたリクとかぶらないように
あえてこの設定で加地君に語っていただきました。
加地君、書きやすくて好きです。