TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「Desire」*yui様リクエスト&タイトル*

 選抜合宿の最終日はメンバー全員での演奏会となっていた。
 同じ合宿メンバーの他に日野の姿もあったが、そこに土浦の姿はなかった。
 土浦は俺の演奏など、聴く気がないということだろうか。
 なんとなくわかっていたことではあったが、事実を突きつけられると何故か動揺せずにはいられない。
 そんな気持ちを振り払い、俺はヴァイオリンをゆっくりと構えた。

 弾き終えると、慌てたように部屋へと入ってくる日野と土浦の姿が見えた。
 日野はわざわざ土浦を探しに行ったのだろうか。
 そう考えるとまた気分が落ち込んでいくような気がしたが、どうしてなのか自分でもわからなかった。
 聴けなかったと残念がる日野の声は聞こえたが、土浦の声は聞こえてこない。
 それでも慌てて走ってきたところをみると、聴く気はあったということだろうか。

 もう一曲と言われたとき、普段ならばあまり乗り気はしないはずなのに、俺も弾きたいと思った。
 今ならば土浦に俺の演奏を聴かせることが出来る。それよりも、土浦と一緒に演奏することが出来る。
 そう思ったときにはもう、土浦を伴奏へと誘う言葉が口から出ていた。
 驚きと呆れたような顔を見せられたが、断られることは全く考えていなかった。
 挑戦的な目でひとつの楽譜を示され、俺は一言、了承の意を伝えた。

 合宿メンバーではない土浦が伴奏をすることに場はざわついていた。
 そんなことは気にせずヴァイオリンを構えれば、土浦も気にする様子などなく椅子へと座る。
 土浦へと視線を送れば、いつでもどうぞと言わんばかりの視線が送り返された。
 軽く頷けば、土浦の指は鍵盤へと吸い込まれるようにして旋律を奏で始めた。
 最初の一音で、それまでのざわつきが嘘のようにシンと静まり返った。

 ピアノとヴァイオリンの音が重なった瞬間、今までにない音色が響き渡った。
 土浦は初見らしいことを言っていたが、弾くべき音を逃さないその弾き方はさすがだった。
 いつでもこちらの意表を付く思いがけないその演奏は、俺の期待をいい意味で裏切る。
 土浦を伴奏に選んだことは間違いではないのだと確信する。
 だからいつまでもこうして土浦と一緒に奏でていたいと、俺はそんなことを思いながら曲を奏でていた。

 セレクションで弾けなかったこの曲を、まさか土浦の伴奏で弾くことになるとは思ってもみなかった。
 あの日、誰もいない講堂で一人弾いたときとは違う音色が、思いがけず俺を高揚させる。
 背後に感じるピアノの音と土浦の気配が、もっと高みへと俺を押し上げる。
 注がれているのであろう誰の視線よりも、土浦の全てを全身で感じる。
 何を言わなくても、言葉など交わさなくても、俺たちは奏で合うことでお互いを感じていた。

 土浦に聴いてほしいと願った。
 土浦と共に奏でたいと望んだ。
 そして、土浦も同じ気持ちでいてくれたらいいと、俺は心からそう思った。

 演奏が終わり土浦へと視線を向ければ、土浦もまた俺のことを見ていた。
 その瞳の中からまだ足りないという訴えを感じ取り、それが同じだったことを嬉しいと思った。



2011.1
拍手第10段その4。
Desire(欲求、切望)

リク内容は「漫画版選抜合宿でのLR合奏をL視点で」でした。
ちょっぴり説明の多過ぎな話になってしまったかもと反省。
原作を読んだときに、土浦君を伴奏に指名するなんて(きゃっ)
とか思っていたので、書けて楽しかったです。