『音色のお茶会』
「crossroad」
学院の校門を出たところで声を掛けられ、一緒に帰ることになった。出会ったばかりの頃のように、言い争うことはあまりない。
会えば普通に話もするし、一緒に練習をすることもよくある。
他愛のない会話を交わし、たまに沈黙が訪れても雰囲気は悪くならない。
もうすぐ、いつもの交差点に差し掛かる。
信号を渡れば、その先の帰路は別々だ。
「また明日」
それはいつもの挨拶なのに、何故か返す言葉が出てこない。
昨日までなんでもなく聞いてきたその言葉が、やけに心に痛い。
「どうした?」
不思議そうに声を掛けられて、答えようと口を開いても音にならない。
無意識に伸ばしかけていた手に気付き、慌てて元に戻した。
明日になればまた会えるのに、ここで別れてしまうことに名残を感じる。
今まで一度もこんな風に思ったことはないのに、離れがたいと思ってしまう。
交差点を渡る前は、いつものように話をしているだけだった。
交差点を渡っているときも、特に変わったことはなかったはずだ。
交差点を渡り終えた瞬間、本当に突然、気持ちに変化が訪れた。
名残惜しさと淋しさと、そしてあふれてくる愛しさで、心の中がいっぱいになっていた。
2011.1
拍手第10段その3。
crossroad(交差点)
どちら目線でも。
ある日突然訪れる自覚話も好きです。
拍手第10段その3。
crossroad(交差点)
どちら目線でも。
ある日突然訪れる自覚話も好きです。