TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「ノーコメント?」*みときち様リクエスト&タイトル*

 先生に呼び出され音楽室へと行けば、そこに見たことのある後ろ姿を見つけて驚いた。
 無駄のない真っ直ぐで綺麗な立ち姿とピンと張り詰めたような雰囲気の持ち主は、間違いなく月森だろう。
 ウィーンに留学した月森とはもう学院内で会うことなどないと思っていから、こんな場所での再会があろうとはまったく考えていなかった。
 そして出来れば、学院内での再会は避けたかった。
 月森はもちろん制服を着ているはずがなく、逆に俺は未だに着慣れない音楽科の制服を着ている。
 着慣れないだけならまだいいが、俺にこの制服はどうにも似合わないことがわかっていたから月森には見せたくなかった。
 気付かれなければいいが、と思った瞬間、ものすごく嫌なタイミングで先生に名前を呼ばれ、その声に反応するように月森が振り返る。
 驚いたまま思わず立ち尽くしていた俺は視線を動かすのが遅れ、ほんの一瞬だったが月森と目が合ってしまった。
 一瞬過ぎて読めなかったのか、それとも相変わらずだったのか、どちらにしても月森の表情はわからないまま再会のときは過ぎていった。

 用事を終えて音楽室を出れば、その扉の脇に月森は立っていて、また驚いた。
 先に出て行く気配は背中越しに感じていたから、もう会わないだろうと思っていて油断していたらしく、咄嗟のことで表情を作り損ねたまま立ち止まった。
「久し振り、というほどでもないか」
 そんな俺の態度を気にするでもなく、月森は声を掛けてくる。
「一瞬、誰かと思ってしまったが、制服が違うだけでずいぶんと印象が変わるものだな」
 だから学院内で月森と会いたくなかったのだと思って、思わず月森から目を逸らす。
「それにしても、ずいぶん着崩しているのだな」
 その言葉が思い切り嫌みに聞こえて睨むように視線を上げれば、予想していた表情とは違う月森がそこにいた。
「仕方ないだろう。俺はお前みたいにはこの制服が似合わないんだよ…」
 だから口から出た文句の言葉の勢いは、その場ですぐに殺がれて弱いものになっていた。
 眉間に皺を寄せ、いかにも文句を言いたいですと言わんばかりの表情をしているのだと思っていた。けれど実際は、それほど表情は変わらず、だからといって無関心というわけでもなさそうな、そんな表情をしていた。
「制服をきちんと着ているイメージがあったから、どんな風に着ているのだろうと、ずっと見てみたいと思っていた。だから見られてよかった」
 その表情がふっと緩み、そして告げられた思いもよらなかった言葉に、俺は訳もなく恥ずかしくなって視線を逸らした。
「俺は、見られたくなかったけどな…」
 似合わないと、一刀両断されると思っていた。別に似合うと言われたわけでもないが、見たかったなどと言われるなんて想定外だ。
「それよりなんで学院にいるんだよ。ウィーンに行ってたんじゃないのかよ」
 どう対応していいかわからなくて、とにかく疑問に思ったことを聞いてみた。
「どうしても必要な手続きがあって一時帰国だ。ウィーンに行っていなければ、俺たちは同じクラスになっていたのだと思うと少し惜しい気もする」
「なっ」
 更に思いもよらない言葉を聞かされて思わず声を上げてしまった俺に、月森は意味ありげな笑みを俺に向けてきた。
 それって、つまり、そういうこと、か…?
 無意識に掴んだ制服の袖に似た慣れない空気に、俺はどうにもいたたまれない気分になった。



2010.3
拍手第6段その5。
似合わないって言われたほうがましだったじゃないか。

リク内容は「土浦が音楽科に転科後、
音楽科の制服を着た土浦に月森が感想を言う話」でした。
なので月森君視点で話を書こうと思ったはずなのに
なぜか土浦君視点で話を書き進めてしまいました^^;