TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「どっちが、上、下?」*せいわ様リクエスト&タイトル*

 アンサンブルの練習中、月森と土浦がいつものように言い合いを始めた。
 合わせて練習することが出来なくなった僕たちは、ため息を吐きつつも休憩や個人練習へと切り替えることにした。そうやって待っていればそのうち決着がついて練習再開となることはわかっているから、仲裁なんて誰もしない。
 休憩を選んだらしい他のメンバーが練習室を退出し、出るタイミングを逃した僕は、とりあえずヴィオラを机に置いて言い合いをしている二人をなんとなく見ていた。
 二人の言葉にはそれなりに説得力があって、どちらも間違ったことは言っていない。譲歩し合ってその中間を取ればうまくいきそうな気もするけれど、個々の見解が強過ぎる二人にはどうしてもそれが無理みたいだ。
 土浦が押し切るのだろうと勝手に想像していたのに、最初から最後まで主導権は月森が握っているみたいだ。感情論も正論には勝てないということだろうか。
 状況が不利になってきて、土浦はどこか悔しそうな顔を見せる。そんな土浦を月森は少し困ったように見つめ、それまで一切、意見を覆さなかったのに、ここにきて初めて譲歩案を出した。それがきっかけでどうやら言い合いは完全に終わったみたいだった。
 言いたいことを言い合ってスッキリしたのか二人の顔には微かな笑顔が浮かんでいる。それとは対照的に、僕の心にはもやもやとしたものが残っていた。
 何か引っ掛かるようなものを感じる。なんだろう、この違和感は…。
 微笑み合う二人は、僕の視線など全く気にしている様子がない。そして月森の手が土浦をそっと引き寄せる。
 あれ、この二人って・・・。
「あの、さ…」
 そのままキスでもしそうな雰囲気を醸し出している二人に、僕は思わず声を掛けてしまっていた。
「あぁ、待たせてしまったな、加地。他のみんなはどうしたんだ」
 それまで二人の世界を作っていた月森が、なんでもない顔で振り返って僕を見る。対する土浦は僕の存在に初めて気が付いたかのように驚いて月森から離れた。
「休憩で席を立っただけだからすぐに戻ってくると思うよ」
 そう答えながら、感じる違和感の正体が何かわかってくる。僕が勝手に思っていた二人の関係には、どうやら大きな思い違いがあったようだ。
「それより今更だけど、君たちって、どっちが、…上?」
 どう聞いたらいいのかわからなくて言葉を探したはずなのに、出てきたものは簡潔でストレートな言葉になってしまった。
「えっ!」
「あぁ、俺だ」
「なっ!」
 驚くように発せられた土浦の言葉にあっさり答える月森の声が重なり、そしてまた叫ぶかのような土浦の声がそれに重なった。
「そう、なんだ…。なんで、そうなったの?」
 僕はずっと土浦に主導権があるのだと、見た目だけで判断してそう思っていた。
「言うな。っていうか。聞くなっ」
 怒っているのか照れているのかわからない表情で、土浦が叫んでいる。
「だ、そうだ」
 その隣で、月森は余裕の笑みを浮かべている。
 明確な答えは聞けなかったけれど、どう見ても月森のほうが一枚も二枚も上手なのだと、それだけは僕にもわかった。



2010.3
拍手第8段その4。
人は見かけで判断してはいけないってことだね。

リク内容は「加地視点で、普通見た目から言うと月森のほうが下だけど
どうして土浦のほうが下なのか疑問に思ったみたいな感じで」
ということだったのでずばり聞いていただきました。
でも明確な答えは得られていないですね^^;