『音色のお茶会』
「目指す音色が違っていても」
月森と一緒に合わせる機会が多くなると、俺たちの音色は本当に違うのだと改めてそう感じさせた。技術の高さはもとより、曲への解釈や表現力など、あまりにも違い過ぎて思わず笑ってしまうほどだ。
でもそれが楽しい。曲に対する意見がひとつではないことが、ずっと一人で弾いていた俺には新鮮だ。
たぶん同じように一人で弾いていた月森にとってもそれは一緒だったのだろう。
始めはお互いの意見など聞く耳持たなくて、自分の主張ばかりを繰り返していた。
けれど仕方なく受け入れた相手の主張で弾いてみると、こういう弾き方もあったのかと驚かされる。
俺はそれを悔しいから口に出してはいなかったが、月森はあっさりと認めて言葉にする。
滅多に見たことのない微笑み付きで、君にはいつも驚かされると、なんでもないように伝えてくる。
合わせればやっぱりその音色は違うから、俺は月森の音色に合わせたいと思ってしまう。
それでも躊躇している俺の音色に、歩み寄ってきた月森の音色が綺麗に重なってくる。
そうして音色の幅を広げた月森の演奏に、気付けば俺は魅了されている。
好きになどなるはずのなかったその弾き方や音色に、俺はすっかり虜にされてしまったらしい。
それは俺の音色に近付いたからとも思ったが、一人で弾く月森の音色はやっぱり俺とは全然違う。
それでも俺は、全く違う月森の音色でさえも好きになっている。
こんなにも違うのに、惹かれるのはどうしてだろうか。それとも、違うからこそ惹かれるのだろうか。
月森の音色も存在も、ゆっくり俺に近付いてくる。近付いて入り込んで、そのまま離れていかない。
ゆっくりと捉われていく俺の音色も、月森に近付こうと変わっていく。
全く違うはずの二人の音色が重なったとき、そこに二人だけの新しい音色が生まれる。
2010.2
拍手第7段その7。
二人で同じ音色を作り出すことも出来る。
違うからこそっていうのはワンパターンなのですが。
そこはどうしてもはずせないのですよね。
拍手第7段その7。
二人で同じ音色を作り出すことも出来る。
違うからこそっていうのはワンパターンなのですが。
そこはどうしてもはずせないのですよね。