『音色のお茶会』
「今朝から一度も声を聞いていない」
放課後の練習室で、俺は一人、ヴァイオリンを弾いていた。いつもと変わらないはずのその時間が、けれど今日はなんだか落ち着かない。
気が急いているのか焦っているのか集中出来ない上に、気が付くと何故か時計を見ている。
特に用事はなかったはずだ。誰かと約束をした覚えもない。
それならば何故、俺はさっきから時間を気にしているのだろうか。
練習を再開するが、何かを気にしながらの練習では納得の出来る音を出せるわけもない。
ため息混じりに下ろした手がポケットに入れてある携帯電話に触れた。
ヴァイオリンと弓を机に置き、ポケットからそれを取り出してみる。
ディスプレイを確認するが着信もメールも何もきていない。
ほとんど鳴らないことはいつものことなのに、今日はそれがやけに淋しい。
俺はさっきから、一体何を気にしているというんだ?
自問自答を繰り返すが、明確な答えは何も出てこない。
もう一度ため息を吐けば、下校を知らせるチャイムが鳴った。
瞬間、心の中が淋しい気持ちでいっぱいになり、無意識にまたため息が漏れる。
今日の俺は、一体どうしたというのだろうか。
何もわからないまま携帯電話をポケットに戻しかけて、俺はハッとしてすぐにもう一度取り出した。
今日は朝から一度も土浦の声を聞いていない。
登校時間もお昼休みも放課後も、その姿すら一度も見ていない。
俺はこのまま一日を終わらせたくないと、ずっとそう思っていたことに今やっと気が付いた。
急いで土浦に電話を掛ける。
この電話が繋がったら、一緒に帰らないかと伝えてみようか。
2010.2
拍手第7段その2。
君の声を聞くことのない一日は本当につまらない。
自覚症状の足りていない月森君を書くのは大好きです。
というか、そんなイメージなのです。
拍手第7段その2。
君の声を聞くことのない一日は本当につまらない。
自覚症状の足りていない月森君を書くのは大好きです。
というか、そんなイメージなのです。