TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「掴んで離さない」

「好きだ」
 そう告げると、土浦は驚いた表情を向けてきた。
「俺は春になったらウィーンへ留学する。だから、嫌なら忘れてくれて構わない」
 こんな風に言うのはずるいのかもしれない。
 けれど俺はこの気持ちを伝えないままウィーンへと旅立ちたくなかったし、だからといってこの気持ちを土浦に強制するつもりもなかった。
「お前、言うだけ言って逃げるつもりかよ」
 向けられた表情は険しいものへと変わり、その声には怒りを含んでいた。
「そうかもしれない…。言っていることとやっていることが矛盾していることは自分でもわかっているつもりだ」
 ここで土浦に嫌われることも承知の上だ。尤も、好かれていたとは最初から思ってはいないが。
「お前はそれでいいのかよ」
 怒りの表情が真っ直ぐに俺へと向けられ、俺はそれに答えるように真っ直ぐに土浦を見つめた。
「それは、仕方がないと思っている。だが君にどう思われようと、この気持ちが変わることはない」
 俺はこの気持ちを伝えないで後悔することは、絶対にしたくなかった。
「お前、本当に自分勝手だな…。ま、俺も人のことは言えないけどな…」
 最後は小さくつぶやいた土浦の視線が、ほんの一瞬だけ逸らされた。
「俺は、お前がウィーンに行こうがどこに行こうが、お前の気持ちを忘れてなんかやらない」
 戻ってきた視線も伝えられた言葉も、今までに見たこともないくらい真っ直ぐだった。
「土浦、それは…」
 それは俺の気持ちに答えてくれるのだと、土浦も同じ気持ちなのだと、そう思ってもいいのだろうか。
 俺は思わず手を伸ばし、その腕を掴んでいた。
「さぁな。俺から答えを聞きたいなら、もっと努力するんだな」
 俺の言葉に肯定の返事は返らなかったが、否定もされなかった。
 目の前で見せられた不敵な笑みに、俺も同じ笑みを土浦に返す。
「あぁ。俺はこの手を離す気はないから、覚悟していてくれ」



2010.1
拍手第6段その4。
君の心も、放す気はない。

片思いだと思ったら実は両思いって話は好きです。
そして素直に返事をしない土浦君の話も好きです。