TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「発展途上の恋煩い」

 ものすごく久し振りに熱を出した。
 ここ数年、風邪すらひいていなかった俺には本当に久し振り過ぎて、自分が熱を出していることに気付いたのはついさっきのことだった。
 そういえば授業中もやたら眠くて半分くらい聞いていなかったし、お昼も食欲がなくてパン1個で済ませていた。
 放課後のアンサンブル練習で顔が赤いと指摘され、やっと気付いたというのはちょっと恥ずかしい話だ。
 下校時間が近かったこともあって今日の練習はお開きになり、俺は帰る方向が一緒だからと追いかけてきた月森と一緒に家へと向かっていた。
 隣を歩く月森はなんでもない顔をしているが、今の俺はなんだか居た堪れない。
 自己管理がなっていないとか、本番前に気を緩めるなとか、いつものようにそんな言葉を言われたほうが気が楽だと思うのに、月森はさっきから一言もしゃべらない。
 二人っきりというこの状況に、俺は昨日の帰り道に告げられた月森の言葉を思い出してしまう。

『嫌いではないということを、覚えておいて欲しい』

 真剣な顔をした月森のその言葉は、一体なんだったのだろうか。
 特に深い意味はないのだと、そう思おうとすればするほど、その言葉の意味が気になってしまう。
 けれどその意味を知ってしまうのも怖い気がして、俺はそれを聞くことが出来なかった。
 そして、俺も嫌っているわけじゃないと、そう思った自分に驚いた。
 今もこの沈黙に耐えられなくて言ってしまいそうになったその言葉を、俺は寸でのところで飲み込んだ。
 言ってはいけない気がする。言ってしまったら、俺は…。
「今日はゆっくり休んだ方がいい」
 不意に聞こえた声に顔を上げれば、いつの間にか家に帰り着いていた。
「あぁ…」
 返事を返す俺の声は、何故か少し掠れている。
「また明日…」
 月森の声に、帰っていく後ろ姿に、トクリ、と心臓が鳴る。
 顔が、やけに熱い。熱の所為ではないその熱さに、俺は気付く。
 もしかしてこの熱は、知恵熱ってヤツなんじゃないか。
 気付いた途端、体温がまた上がったような気がした。



2009.11
拍手第4段その6。
考え過ぎて熱が出た。
それほどお前のことを、考えていたってことだよな…。

同じ系統のタイトルだけど、「な」の続きでもそうじゃなくても。
知恵熱出してやっと、自分の気持ちを自覚したようです。