『音色のお茶会』
「なくて七癖」
短い髪をかきあげるのは、君の癖なのだろうか。驚いたときも、照れたように笑うときも、君の手は前髪をかきあげている。
その髪に、ふと触れてみたいと思った。
「な、なんだよ」
突然伸ばした手に驚いたのか、顔を引かれて触れることが叶わない。
更に手を伸ばすと、更に身体ごと引かれる。
ただ触れたいだけなのに、なぜか叶わないのだろう。
「おいっ、月森」
焦ったような声を聞きながら、とにかく髪に手を伸ばす。
壁にぶつかって後ろに下がることができなくなった君は、今度は下へと逃げる。
「だから、なんだっていうんだ」
逃げ場のなくなった君の、睨むような瞳を通り越してようやく前髪に触れる。
指の間をすり抜ける感触が、軟らかくて心地いい。
「土浦の髪に触れたかった。それだけだ」
やっと触れることの叶ったその髪に、そっと唇を寄せてささやく。
「・・・。はぁ、またお前は…」
暫しの沈黙の後、盛大なためいきとともに呆れたような声が聞こえた。
「先にそれを言えばいいだろ。なんでいつも黙って行動すんだよ」
言いながら、俺の手が離れた前髪をかきあげる。
その姿が、なんだかとても愛おしい。
「気にするな、俺の癖だ」
そしてまた、何の前触れもなく君の唇に口付けを落とす。
触れるだけで離し、見開いた瞳を見つめながらもう一度、唇を寄せる。
「ったく…」
文句を言うかのように開いた唇を塞ぎ、その声も吐息さえも奪う。
言葉とは裏腹に、腕が背中に回された。
素直じゃないのも、君の癖なのかもしれないな。
『その言葉、そっくりお前に返してやる』
そんな土浦の声が、聞こえたような気がした。
2008.8.29
拍手第3段その2。
君の癖を見つけるたびに
それが愛しさへと変わる。
拍手第3段その2。
君の癖を見つけるたびに
それが愛しさへと変わる。