TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「6年の空白」

 ウィーンに留学してから、土浦には一度も会っていない。
 進路が音大だったことはわかっていても大学卒業後の噂は聞かず、今でも同じ音楽への道を歩んでいるのかすら俺にはわからない。
 同じコンクールの参加者という以外にはただの同級生でしかありえなかった土浦の存在を、俺は離れてから初めて意識した。
 そして自分の中にある土浦への気持ちにも初めて気が付いた。
 ただ単に高校生のあの頃を懐かしく思っているだけなのか、会えないからこそ想いが募っていく錯覚なのか、それともこの気持ちは本当なのか…。
 いつかもう一度、会える日が来たら、この気持ちの理由がわかるのだろうか。

 久し振りの再会は、何の前触れもなく突然訪れた。
「よっ、月森。6年振り、か…」
 高校のときよりも大人びた、けれど印象の全く変わらない笑顔が目の前にある。
「そう、だな」
 6年という年月はいろいろな意味で二人を変えているはずなのに、あの頃となんら変わりない会話が不思議でもあり当たり前であるようにも思える。
 その言葉ひとつひとつに訳もなく文句をつけなくなったことは、お互い大きな変化だとは思うけれど。
「それにしても、こんなところで君に再会するとは思ってもみなかった」
 会って、話をして、この6年の間に気付いた気持ちがやはり真実だったのだと確信する。
 それを伝えたいと思いながら、あまりにも空き過ぎた空白期間が邪魔をする。
 気付くのが遅過ぎたと後悔し、せめてもっと早く再会していればと更に後悔する。
「確かにそうだよな…。でも、さ、…」
 自然と逸らされる瞳と言葉を濁すように訪れた沈黙に、何故か心臓が高鳴る。
「ずっと会いたいと思ってた、なんて言ったら笑うか?」
 そして沈黙を破って聞こえたその言葉に、高鳴った心臓がそのまま止まってしまったかのような錯覚を覚えた。
「あぁ…なんでもない。今の、聞かなかったことにしてくれ」
 伝えたいと思っていた気持ちを先に告げられ、それが否定されそうになって、俺の心が動き出す。
「いや、俺も会いたいと思っていた。ずっと会いたくて、想い焦がれていた」
 後悔が、希望へと変わる。
 驚いた表情が笑顔に変わる頃、俺達は6年間の空白を埋めるようにそっとキスをした。



2009.11 拍手第3段その1。
その6年は長かったけれど
これからの時間は長く共に。