『峠のお茶会』
恋々たるこの想い2
どうしても。オレは拓海を手に入れたいと思った。
出逢った時から気になる存在だった。
だから自分の想いを自覚した時に驚きとともに感じたのは、一種諦めに近いものだったのかもしれない。
いい意味でも悪い意味でも、オレは諦めを感じずにはいられなかった。
どうあがいても否定出来ないこの想いを認める事への諦め。
そして、決して手に入らない、叶わない想いだと認める事への諦め。
けれどオレはこの想いを認める事が出来ても、諦める事も止める事も出来なかった。
この想いに名前をつけるとすれば、恋とか愛とかそういった類のものだ。
だからただ想っているだけでは済まされなくて、独占欲とか嫉妬とか、新しい感情が次々と生まれてくる。
今まで、そこまで想った人はいなかった。
だから、初めての感情だった。
拓海にだけ、オレは初めてそんな感情を抱いた。
想いは日に日に募っていった。
逢えば逢うほど惹かれ、逢わなければ収まるどころかその想いは更に増した。
悟られないように、気付かれないように。
オレはその想いをずっと押さえながら過ごしていた。
歪んでいるのはオレだけだから。
オレはこの想いで拓海を傷つける事だけはしたくなかった。
けれど、全てを奪いたいと思う事も、事実だった。
そして、オレは限界も同時に感じていた。
憶えているのは涙で濡れたその瞳と、オレの名を呼ぶ必死な声。
あの日、オレは拓海を傷付けた。
想いを告げた訳でもない、ましてや同意を取った訳でもない、ただただ自分の為だけに。
オレは拓海の身体を、そして何よりも心を傷付けた。
取り返しのつかない事を、あの日のオレはしてしまった。
今更、何を言っても、もう遅い。
なぜ、彼だったのだろうか。
なぜ、オレの心が動いたのは拓海だったのだろうか。
なぜ、こんなにも想う人が手に入らない存在だったのだろうか。
なぜ・・。
『もう逢わない』
それはオレが残した最後の言葉。
あの日からオレ達は逢っていない。
オレが、どんな顔で彼の目の前に立てるというのだろう。
何を、言えるというのだろう。
逃げだという事は分かっている。
だけど今のオレには何も出来やしない。
拓海だから。
相手が拓海だから、オレはどうしようもなく臆病で、何も出来ないヤツになってしまう。
嫌われたかもしれない。
きっと、嫌われたと思う。
後悔しても今更だ。
自分のせいだから、悔やんでも悔やんでもそれが償いにはならない。
オレには後悔する資格なんかない。
後悔しても、どうやっても取り返しはつかない。
何もかも、終わってしまった。
オレは自分で、全てを終わらせてしまった。
まだ、何も始まる前に。
だけど拓海。
拓海はオレの事、どう思っていた?
そして今、オレの事をどう思っているだろう。
答えは聞けないけれど。
今となっては、もう聞く事が出来ないけれど・・。
何をしても。
オレは拓海を手に入れたいと思った。
そして。
オレは拓海を失った。