『音色のお茶会』
分かれ道の向こう側1
目の前にいくつもある分かれ道をひとつずつ選んで進んできたけれど
別の道を選んだ自分を考えてしまうのは
選んできたこの道に後悔しているからなのか
それともその道へと繋がる分かれ道を
今になって探しているからなのだろうか
もしも。
そう考えたその先に答えはあるのだろうか。
“もしも”は存在するのだろうか。
コンクールが終わった。
半分は巻き込まれたような形で参加したコンクールが終わった。
音楽から意識的に離れていた俺が、まさかまたこんな風に音楽漬けの毎日を過ごし、人前で演奏する日が来るなんて想像していなかった。
けれど、ピアノを弾くこと自体を辞めていたわけでもなかったし、音楽が嫌いになったわけでもなかった。
参加をするからにはある程度の結果を出したいと思った。でもそれは勝ちたいというよりも負けたくないという気持ちが大きかった。
音楽は音楽科だけのものではないのだと、そう思わせたかった。
結果は総合4位で、その成績は少なからず俺を悔しい気持ちにさせた。
そして優勝したのが月森だったことも、俺を更に悔しくさせた。
月森の言動は気にくわないが、月森の全てを否定するわけでも嫌いなわけでもない。
本人の考え方や解釈の仕方、人に対する物言いや態度など、どうしても相容れない、認められない部分があるにせよ、その演奏技術に関して言えば完璧で、音楽に対する姿勢は誰よりも真っ直ぐなのだとコンクールを通じて知った。
知れば知るほど負けたくなくて、けれど結果は俺の負けで終わった。
途中参加というハンデがあったにしても、それは言い訳にしかならない。俺が普通科だということも結果には関係ない。
俺にそれだけの実力がなかっただけのこと。
そして月森が優勝するに値するだけの実力の持ち主だということは、認めざるを得ない。
だからこそ、余計に悔しい。
月森の音楽に対する姿勢に、どんな理由があるにしても音楽から距離を置いた俺は負い目のようなものを感じていたのかもしれない。
俺がずっと音楽を続けていれば、結果は違うものになっただろうか。
音楽を続けていたら、俺は音楽科に入っていただろうか。
俺が音楽科に入っていたら、月森との出逢いは違うものになっていたのだろうか。
俺たちの出逢いがコンクールという競い合う場ではなかったら、俺たちの関係は違うものになっていただろうか。
もしも…。
考えても仕方ないことを俺は考えてしまう。