『音色のお茶会』
海に輝く月4
月森とは途中の駅で別れ、俺は会場へと向かった。サマーコンサートと題して行われる今回の演奏会は、大学時代から数えてちょうど20回目にあたる。
今はメンバーそれぞれが違う職に就いている所為でなかなか全員が揃うことは難しく、それでも1年に1回は公演することを目標に活動している。
今年は例年に比べれば早い時期の開催となり、途切れることなく無事に開催することが出来るのはやっぱり嬉しいことだった。
大学に入ってから、アンサンブルをやろうと言い出した加地に誘われ、気の合う仲間たちと一緒にやり始めたのがきっかけで、それからずっと演奏会を開いてきた。
大学時代は仲間が仲間を呼び、結構な人数での演奏会になることもあったが、卒業してからは初期メンバーだけで演奏会を開いている。それでもたまにゲスト奏者として色々な人が出てくれていて、そこには高校時代のコンクールやコンサートで知り合った人たちも含まれている。
進む道が違っていても不思議と繋がっているから面白い。
だから会場の観客席に見知った顔を見つけることはよくあり、演奏会後の打ち上げは小さな同窓会みたいになることが恒例になってきている。
月森も都合の合うときは聴きに来てくれていたし、サッカー部の頃の仲間たちが聴きに来てくれることもあった。
そういえば一度、観客の中に吉羅理事長を見付けたことがあり、あのときは本当に驚いた。君たちは学院の広告塔になると言われたときには相変わらずだと思ったが、それも評価されているからなんだと思うようにしている。
最初の頃はそんな身内ばかりの演奏会だったが、そこから徐々に一般の来客者も増えていった。
音楽の輪が繋がって、どんどんと広がっていくのは俺たちにとってとても嬉しいことだった。
気軽に、畏まらず、誰もが音楽に触れて欲しい。もっともっと音楽を広めたくて始めた演奏会だったが、その思いはちゃんと伝わっているようだ。
だから俺たちは、1年に1回でも演奏会を開くことを本当に楽しみにしている。自分たちが音楽を楽しむために、そしてその音楽を聴ききにきてくれた人に楽しんでもらうために、俺たちはこれからも演奏会を開いていくのだろう。
その思いはみんな一緒で、だからこのメンバーで集まって演奏すると、音楽は楽しいものなんだと本当に心から思える。
今では練習以外でメンバーが集まることはあまりなく、その練習も揃ってはなかなか出来ないが、久し振りに合わせてもその演奏からは音楽に対する思いがいつだって感じられた。
お互いの音色にある癖はすぐに思い出すことが出来て、言葉に出さなくても自然とまとまった音色になっていくのは、今まで何度も一緒に演奏して来た仲間だからこそなのだろう。
そして、大学の頃よりも確実にレベルアップしている仲間たちの音色に触発され、お互いの音色を高め合うことが出来ることが、この演奏会を更に楽しみにさせていた。
そんな音楽での繋がりもさることながら、音楽に限らず気楽に話を出来る仲間というのはやっぱりかけがえのないものだ。
だから普段バラバラでも、こうやって集まって演奏会を開くことが出来る。同じものを作り上げようと、そう思うことが出来る。
今までの演奏会をひとつずつ思い出しながら、今日もまたいい演奏会になればいいと、俺は真っ青な空を見上げながらそう思った。
2009.9.15up