TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

海に輝く月2 *

 微かに残る理性がこのまま流されてはいけないと抵抗を試みるが、それを見越しているのだろう月森にいとも簡単に阻まれてしまう。
 それに俺の身体は昨日の月森の熱を憶えていて、その記憶にちっぽけな理性が勝てる訳もなかった。
 俺が抵抗を見せないとわかった途端に、月森の行動はやけにゆっくりなものに変わる。
 けれどそんな行動が俺を煽ることに変わりはなく、見つめてくる瞳も、触れてくる唇も、余すことなく俺を高揚させた。
「ぁ…」
 堪えきれずに声が漏れ、身体が反れて視界に窓が映る。窓から差し込む光がやけに明るくて、カーテンが開いているのだと今更気付いても遅い。ただ、窓を開けなかったことは幸いだったと思う。
 もうすでに朝なんだと思わせるその光景を、俺はなるべく考えないようにしようと思った。そんなことを考えても、この状況では本当に今更だ。
「梁太郎…」
 そうやって少しでも他のことに気をとられていれば顎を捉えられ、不機嫌な顔を隠しもしない月森へと視線を戻された。
 こんな風に、あからさまに向けられる月森の独占欲を、俺は嬉しいと思ってしまう。それは俺だけに向けられているのだと、俺の独占欲を満たす。
 なんだかんだと文句の言葉を考えながら、俺も結局、同じことを望んでいるのだ。
 だから俺は月森へと腕を回し、引き寄せるように唇に触れた。
 月森から独占欲を向けられるのも、月森に独占欲を向けるのも、全部、俺だけのものだ。
 本当に触れるだけでそっと離せば、少し驚いたように開かれた瞳が目の前にあって、けれどそんなに驚かれるようなことをしたつもりはない。
 別に、俺からのキスも、こんな風に引き寄せることも初めてではないのに、それなのにそんな表情を見せられて、俺はとんでもないことをしてしまったような気になって急に我に返ってしまった。
「な、なに…」
 カッと、顔に熱が集まったことを自覚する。それが妙に恥ずかしくて手で隠そうとすれば、それよりも一瞬早く、月森の手が俺の行動を阻んだ。
 ゆっくりと、本当にゆっくりと月森の顔が近付いてくる。晒されたままの赤い顔を隠すことも出来ず、何故か目を瞑ることも出来ず、真っ直ぐに見つめてくる月森の瞳を見つめ返した。
「梁太郎…」
 吐息が触れるほどに近付き熱っぽく呼ばれた名前に、身体の中に何か、衝撃のようなものが走り抜けた。
「れ、ぅんっ…」
 呼び返すはずだった名前は、月森の唇に塞がれて違う音に変わる。
 触れるだけでは済まされない深いキスに無意識に瞼を閉じれば、その感覚は更に敏感になる。
 我に返っていた意識がまた、一気に月森へと戻されていく。戻されて、月森でいっぱいになる。
「れん…」
 ゆっくりと、まるで名残を惜しむように唇は離れ、零れ落ちるように漏れた吐息と一緒にようやく月森の名前を呼ぶことが出来た。けれどその声は掠れ、舌先はまるで麻痺したかのようで、綺麗な音にはならなかった。
 答えるように耳元で名前をささやかれ、そしてどこか嬉しそうな表情を見せながら、月森の手が俺の肌の上を辿っていく。
 持て余してしまいそうなほど身体は熱く、それなのに更なる熱に俺は翻弄されていく。熱くて、でもまだ足りなくて、もっと、と、願ってしまう。
 縋るように求め、その願いが叶ったときが、俺の限界だった。



2009.9.3up