TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

海に浮かぶ雲16

 しばらくして、月森のリサイタル開催が決定となった。
 伴奏者については少しもめたらしいが、月森の要望が通り俺が務めることになった。高校の元同級生という話題性もあるからと、俺の出演は最終的に決定されたらしい。
 コンクール経験も少なく大きな舞台に立つこともなかったこれまでの音楽活動は、表舞台で華々しく活躍している月森に比べればどうしても劣ってしまう。だからそれが例え月森の要望だとしても簡単には通らないだろうとは思っていた。それでもやっぱり話題作りと言われてしまうのは少し悔しい。
 悔しいからと逃げたって仕方ない。話題作りと言われるのならば、それ以上の結果を出すまでだ。
 けれど主催者側に、そんな理由ではなく俺の出演を後押ししてくれた人がいたらしい。過去の経歴でも弾いてきた場所でもない、今の俺の持つ実力を評価していたと聞いたときはやっぱり嬉しかった。どこでどんな評価をされているかわからないから驚きだ。
 色々なところで弾き、そして色々な人たちとの演奏経験が俺の音楽を作り上げてきたのだと改めて感じた。そしてまた月森との演奏経験が、俺の音楽にとっての財産になる。
 誰にどんなことを言われても、それに負けない、それを覆すような演奏をしたいと思う。
 そしてそれは、思うだけではなくこなさなければならない俺の目標であり決意だった。


 月森のリサイタルが正式に決まったその次の日に、久し振りに例の電話が掛かってきた。
 電話が鳴ったとき、なんとなくそんな予感がしたから留守電に切り替わる前に出てみると、嬉しくないが見事に当たっていた。
 台詞は変わらないのに、いつにも増して感情的な声だった。
 タイミング的にきっとリサイタルのことを知ったのだろう。一般的に公になった訳ではないが、音楽関係者ならその情報を手に入れていてもおかしくない。
 なんで、どうして。そんな感情が、短い言葉の中からひしひしと伝わってきた。
 その疑問に対する明確な答えを、俺もまだ出せずにいた。月森に選ばれたのだということも、俺の演奏を認めてくれていることもわかっている。決心が鈍っている訳でも逃げ腰になっている訳でもないが、本当に俺でいいのだろうかと思ってしまうことはなくならなかった。
 その思いを見透かすかのように、電話の回数は増えた。毎日ではなかったが、以前に比べればその回数は倍以上だ。
 何か対策をとも思うが、今この時期に変な噂が広まるのも困る。それこそ話題作りになってしまう。
 その電話の度に、月森と同じ舞台に立つことへの重みを再確認させられた。ヴァイオリンのソリストとしての月森の存在は、同じ位置に立ってみるとかなり大きい。
 そんな月森の隣にいる俺を、羨ましいと思っているのだろう。おまけに共演まで決まったことが、その気持ちに拍車を掛けているのだと思う。
 確かに、思ってもみなかった幸運が舞い込んできたことに関して言えば羨ましがられるのもわかる気もするが、俺だってそのチャンスが来ることをただ黙って待っていた訳ではない。俺は俺のやり方で、俺が出来る精一杯の努力でここまでやってきたのだと、それは胸を張って言える。
 自分の力だけでは適わなかったかもしれないが、それでもこのチャンスは与えられただけのものではないと、そう思うことは自惚れだろうか。
 誰からも疑問に思われないくらいの演奏が出来たとき、俺はその疑問に胸を張って答えられるようになるのかもしれない。



2009.1.14up