『音色のお茶会』
『parallel mind』 variation ~変奏曲~ 6
何かを変える力があるのならば
その力を使うための勇気をください
ホテルへの入り口のドアと、エレベーターのドアが、同時に開いた。
ロビーのその先で見つけたお互いの姿。
昨日よりも近い距離で偶然ではなく約束での再会。
何の音も聞こえなくなったかのような錯覚。
思わず手を伸ばしてしまいそうになる衝動。
とっさのことで作り損ねた表情。
そして見つめるように絡まる視線。
想いがあふれ出して高鳴る鼓動。
歩み寄る二人の距離が、縮まった。
近くのカフェへと入り少し落ち着いたが再会の雰囲気には慣れず、お互い黙っていた。
まだ軽い挨拶程度しかしゃべっていない。そんな月並みな台詞でも口に出しておかないと、何を言ってしまうか自分でもわからない。
自分たちの関係が何も変わっていないとわかっていながら、この偶然の再会でもしかしたら変えられるのではないかと根拠のない期待を抱いている。
そうなればいい。そうだったらいい。ずっとずっと、そう思ってきた。
けれど会わなかったこの5年もの間に、どんなことがあったのか俺は知らない。
全体的な印象は、少し大人びた感じを受けるものの、あの頃と何も変わっていない。でもそれは外見的なことであって、内面的なことはわからない。
俺がずっと想い続けていたように今でも日野のことを想っているかもしれないし、俺の知らないところでその想いが叶っている可能性だってある。相手が日野ではなくても、誰か他に付き合っている人がいてもおかしくない。
そう考えると、5年という年月はとても長いものだったのだと痛感する。それなのに、俺の心の時間は高校2年のときに止まったままだ。
いい加減、動かなくてはいけないのかもしれない。
例えどんな真実が待っているのだとしても…。