『音色のお茶会』
『parallel mind』 variation ~変奏曲~ 5
その答えは、一体どこにあるのだろうか
土浦から聞いたホテルは家から15分ほどの場所にあり、俺はそこへと向かっていた。
こんなにも一日が長く感じたのは初めてではないだろうか。
何をしていても集中できない。何度も何度も、時計を見てしまう。
けれど待ち合わせの時間が迫れば迫るほど、今度は逆に時間が過ぎるのが早く感じる。
電話が繋がり、話をすることが出来ると、今度は会いたくなる。そう思っているのは自分だけなのだろうが、土浦はそのどれも否定してこない。
考えてみれば、俺たちの関係はずっとそんな感じだったのかもしれない。
ことあるごとに反発し合っていたのは最初の頃だけで、その後は言い合うことも少なくなっていたように思う。
お互い譲り合えないところはあっても、それを頭ごなしに否定することもいつの間にかしなくなっていた。それは俺の土浦に対する気持ちの所為だったかもしれないが、土浦も同じように否定してこなくなっていたのだと思い出す。
最初の頃のイメージが強過ぎてずっと嫌われていると思っていたが、そうでもなかったような気がしてくるのはどういうことなのだろうか。
土浦に誘われれば、俺は拒まない。そんな俺の理由はわかっている。
俺が誘っても、土浦に拒まれない。けれど、土浦のその理由がわからない。
月森との待ち合わせ時間が近くなって、俺はロビーへと降りていった。
エレベーター独特の圧迫感が、緊張からくる圧迫感と相まって更に重く圧し掛かる。
予定外に出掛けることになった俺に『彼女に会いに行くのか』などと友人たちはからかったが、俺と月森はそんな関係じゃない。
高校の同級生というとわざわざ会いに行く間柄には思われない気がして友人と言ったが、友人という表現も本当は間違っている気がする。
本当の俺たちの関係は、何と言ったらいいのだろうか。
自分でもわからないのに、わざわざ会うような関係でもないのに、それなのに月森は俺に会おうと言ってきた。
それは俺にとって願ってもない言葉だったけれど、月森にとってはどんな意味があるのだろう。
思い出せば、きっかけとなる行動を起こすのはいつも月森からだった。それに対し、俺は受け身だったことのほうが多い。昨日のことだって、あとでと言ったのも、電話を掛けてきたのも、会えるかと聞いてきたのも、全部、月森からだ。
代わりならば誰でもいいのだと思っていた。けれどそれならばなぜ、わざわざ仲の悪い俺を選んだのだろうか。
俺は月森に会いたいと思うからその誘いを受けた。
けれど、月森が俺に会いたいと言ってくる理由が全くわからない。