『音色のお茶会』
『parallel mind』 variation ~変奏曲~ 1
もしも再び会うことがあったなら
そのとき俺はどんな態度をとるのだろうか
偶然とは怖いものだ。
それは何の準備も心構えもないまま、不意にやってくる。
俺たちの再会は思わぬ場所で突然に訪れた。
言葉を失うとはこういうことなのかと、正しく今、身を以って体験している。
何故とかどうしてとか、そんな疑問を考える余裕はまったくなかった。再会したという事実だけが俺の心を占めている。
何も言葉を思い付けないまま、逸らせない視線だけが二人の間で交わされる。
久し振りのその視線は何も変わっていなくて、相変わらずだと思った。けれどそれを懐かしいと思えないのは、思い出したくない過去があるからだろうか。
いや、思い出したくないというのは少し違うような気がする。
忘れたいと思いながら、それでも忘れたくないと心から願ったのも自分だった。だから会わない年月の間、思い出さない日は1日たりともなかった。
けれど心のどこかでその視線が、自分にとって都合のよいものに変わっていた。
俺には決して向けられることのなかったその視線を、勝手に俺のものにしていた。そう、錯覚していた。
だから今、向けられた視線は本来自分に向けられていた視線だったのだと思い出す。
そう思い出せば、やっぱり思い出したくない過去なのだと思い知らされる。
懐かしいと思える訳がない。そんな視線で見られたい訳じゃない。
でも、そんな視線を送り返していたのも自分だ。
まるで締め付けられるように心が痛くなるのに、どうしてその視線を逸らすことが出来ないのだろうか。本当の気持ちを隠して、偽りの眼差しを向けることしか出来ないというのに。
心の奥の奥にしまいこんでいたはずの感情が、じわりじわりと滲み出てくるような気がした。
まるで周りの音すら消えてしまったかのように思えた再会の場面は、月森を呼ぶ第三者の介入によって次の場面へと変わろうとしていた。
呼ばれたその声に、月森はなぜか振り返れなかった。
今ここで目を離したら、こんな偶然は二度と訪れない。そんな危機感にも似た強迫観念に駆られ、土浦から目が離せなかった。
それは土浦も同じで、月森がこの場を去ってしまったらもう二度と会うことなどないように思えて、思わずその表情が微かに曇った。
一瞬、今まで交わしたことのない視線が絡み合う。その真っ直ぐに向けられた視線に、胸の中が切なさでいっぱいになる。
「あとで――……」
何かを言いかけた月森の言葉は、土浦には最後まで届かないまま人ごみの中に掻き消えてしまう。
引っ張られるかのように車に乗り込んだ月森は、まるですがるかのような視線で土浦を振り返った。
土浦はそれを追いかけるかのように一歩踏み出すが、もう届きはしない。
二人の再会は、まるで夢か幻のようにあっけなく幕を閉じた。