『音色のお茶会』
『parallel mind』 pain ~イタミ~ L
眠れない…。行為独特の気怠い余韻が残る夜更けに、俺は隣に眠る土浦へと視線を向けた。
伏せられた瞼に意志の強そうな瞳が隠されて、普段からは想像できないような幼さを感じる。
こんな表情も持っているのだと知ってからどれくらい経つだろうか。
その肌の熱さを感じ合う夜を、一体どれだけ過ごしてきたのだろうか。
けれど君の心は俺に向いていない。
想いが通じ合っているなど、それは俺が思い描く幻なのだとわかっている。
それならばせめて今だけは…。
そう思いながらほんの少しだけ開かれているその唇に、そっと指で触れる。
小さな寝息を立てる唇から、漏れた細い吐息が指にかかる。
「まだ足りないのかよ」
眠っていると思っていたその唇から、非難めいたセリフが聞こえて思わず手を引いた。
隠されていた瞳は真っ直ぐに俺を捉え、まるでにらむように見つめている。
その言動に、俺は思わず眉間に皺を寄せていた。
「冗談だよ。なんでも言葉通りに受け取るなよ」
言葉通りに受け取ればなんでもないその一言が、まるで予防線を張られたように聞こえて気持ちが沈んでいくのを感じた。
さっきまで感じていたお互いの熱さも、告げられた言葉も、それがその場の戯言だと、そう言われているような気がする。
さっきまで甘い吐息と嬌声を紡いでいた唇は、今は皮肉めいた笑みに縁取られそんな気配すら感じられない。
それが悔しくて、俺は噛み付くようにその唇を塞いだ。
「んっ」
急な口付けに抵抗されると思っていた俺の予想に反して、するりと舌が絡んできた。
うっすらと目を開けると余裕めいた表情が目に入った。
その表情を崩したくて、絡めた舌に軽く歯を立て逃げられないようにして強く吸う。
寄せられた眉間が息苦しさを訴えているのを見つめながら、殊更ゆっくりと唇を離した。
「…っは、ぁ…」
解放された唇から甘い吐息が零れるのを、俺はただじっと見つめていた。
ゆっくりと開かれた瞼の下から、濡れて揺れる瞳が俺を見つめてくる。
「やっぱり、足りないのかよ」
その表情とは裏腹の言葉が紡がれる。
それには答えず、俺はもう一度、唇を寄せた。
「ぅん…」
漏れ聞こえる吐息は、甘く俺を誘う。
けれど君の心は、俺に向いていない。
『parallel mind』 pain ~イタミ~