『音色のお茶会』
『parallel mind』 beginning ~ハジマリ~ 2
その時、向けられたあの視線が全ての始まり。自分の気持ちにはなんとなく気付いていた。
ただそれを認めてはいなかったけれど。
それを認めるきっかけになったあの強い視線を俺は忘れることが出来ない。
あの日、森の広場を歩いていた俺の耳に笑い声が飛び込んできた。
会話内容が聞こえる距離ではなかったけれど、その楽しそうな雰囲気は離れていても伝わってきた。
聞き覚えのあるそのやわらかな声は日野のもので、思わず声のする方へと視線を向けた。
日野が笑顔を向ける相手が目に入った瞬間、俺の心臓はドクリと大きく跳ねた。
友人と話をしているときともまた違う表情で、日野と話している。
会えば言い合いを繰り返している俺が見たことがなくても当たり前かもしれないが、その表情はあまりに優しくて穏やかで思いがけないものだった。
でもその表情で俺は思い知らされた。
もしかして、日野のことを…。
気付いた瞬間、俺の心臓はまたドクリと嫌な音を立てた。
それは、今まで認められなかった自分の気持ちを思い知らされるのと同時に、その想いが、絶望的なものだと気付かされた。
叶うことなどないとわかっていても、やっぱり心が痛い。
自分の気持ちも、相手の気持ちも、知らなければ、気付かなければよかった。
それならば…。
俺は自分の気持ちを隠すように、思い切り睨み付けた。
叶わないなら、今の関係を続けていけばいい。ライバルでも友達でもない、会えばケンカを繰り返す仲の悪い二人でいればいい。
そうすればいつか、こんな気持ちは忘れてしまう。なかったことに、なるはずだ。
日野を見送るように見つめていた視線が、不意に振り返って俺の視線と真っ直ぐにぶつかった。
話していた時の笑顔がすっと消える。
睨み返すような強い視線に射抜かれ、まるで全身を強く握り潰されるような痛みに襲われた。
その視線を受けたまま、砕けてしまいそうな心の悲鳴から逃げるように俺はきびすを返し歩き始めた。
『parallel mind』 beginning ~ハジマリ~