『音色のお茶会』
『parallel mind』 beginning ~ハジマリ~ 1
その時、感じたあの視線が全ての始まり。自分の気持ちにはなんとなく気付いていた。
ただそれを認めてはいなかったけれど。
それを認めるきっかけになったあの強い視線を俺は忘れることが出来ない。
あの日、森の広場で日野と話をしていた。
何を話していたかなんて覚えていない。たぶん、偶然会って声を掛けられたのだと思う。
あの頃、日野とはよく話をしていた。コンクールも終わったばかりで、いつの間にか自然と音楽の話をするようになっていた。
だからあの日もきっとそんな会話だったと思う。
そんな俺たちのことを見ている視線に気付いたのは、日野と別れたすぐ後だった。
強く、まるで射抜かれるような視線に、背筋が凍り付きそうになった。
振り返ると真っ直ぐにこちらを睨み付けるような眼差しと目が合って、俺の心臓はドクリと音を立て大きく跳ねた。
それは会う度に、口を開く度に言い合いを繰り返してきた時とは違う、見たこともないような強い視線だった。
その強さに、その理由を思い知らされる。
もしかして、日野のことを…。
それは同時に、今まで認められなかった自分の気持ちをも思い知らされ、そしてその想いが、一瞬にして絶望的なものだと気付かされた。
叶うことなどないとわかっていても、やっぱり心が痛い。
自分の気持ちも、相手の気持ちも、知らなければ、気付かなければよかった。
それならば…。
俺は向けられた視線に、同じような強い視線で睨み返した。
叶わないなら、今の関係を続けていけばいい。ライバルでも友達でもない、会えばケンカを繰り返す仲の悪い二人でいればいい。
そうすればいつか、こんな気持ちは忘れてしまう。なかったことに、なるはずだ。
不意に視線を逸らされ、俺の心臓はもう一度ドクリと嫌な音を立てた。
その場を去る後ろ姿を見た瞬間、まるで心臓を鷲掴みにされたような痛みで身体が震えたような気がした。
心の奥底でまるで悲鳴のように上がった声に、聞こえないふりをしてギュッと目をつぶった。
『parallel mind』 beginning ~ハジマリ~