『音色のお茶会』
「スキの反対はキライ」
最近、どうにも土浦が弾くピアノの音色が気になって仕方がない。初めて聴いたときからずっと自分とは相いれない音色としての認識はあったのだが、今はそれとはまた違う印象で俺の胸を騒がせる。
技術がないわけではないのにその弾き方は感情が優先で、俺はそれをいいとは思っていなかったはずなのに、今はどういうわけかその感情的な音色に心が揺すぶられてしまう。
そして音色だけに留まらず、ピアノを弾く土浦の姿を見ているだけで心がざわついて仕方がなかった。
「土浦君のピアノって、なんかキュンとしちゃうよね」
「ピアノ弾けるってだけでもカッコいいのに、あんな切ない目で弾かれたら…」
「もう、好きになっちゃうよね」
かしましい女子たちが、土浦のピアノの話をしながら通り過ぎていく。聞く気はなくても聞こえてきたその会話の内容を、俺は無意識に反芻する。
言葉の言い回しは全然違うが、彼女たちの言葉は俺の心境にどこか似ている。土浦の音色が気になって、土浦自身に対しても気になって、この感情に名前を付けたら、いったい何になるというのか。
俺が、土浦を、好き?
いや、それはないだろう。俺は土浦のことを嫌っているはずだ。ピアノの弾き方も音楽に対する考え方も、その性格も態度も、何もかも好きになる要素なんてどこにもないはずだ。
好きではない。好きになるわけなんてない。だから俺は土浦のことが嫌いだ。好きではないのだから、嫌いなはずだ。
「なんだよ、険しい顔して。…また、えらく難しそうな楽譜眺めてんな」
不意に声を掛けられ、顔を上げればそこに土浦が立っていた。
俺が座っているせいで当たり前なのだが、その立ち位置という状況以上に見下ろされているような気がして内心ムッとする。
「けどすごいよな、これを弾きこなすんだから。ヴァイオリンのことはよくわからないけどさ、お前の技術は認めてるんだぜ」
だが、たぶん土浦の言う険しい顔以上の表情を見せたであろう俺に、思い掛けない言葉がかけられて驚いたまま、思わず土浦を見上げてみつめてしまった。
「なんだよ、その顔」
じっと見ていればどこか照れくさそうに視線を逸らした土浦のその表情が俺の心を捉え、ざわざわと騒ぎ出した。
この感情はなんだろう。このざわつきは一体、なんだというのだろうか。
「いや…」
何か言葉を返そうと口を開いたが、それ以上の言葉は何も出てくることはなく、沈黙の時間だけが続いた。
「じゃあ、邪魔して悪かったな。練習、頑張れよ」
その沈黙を破ったのは土浦で、俺の態度に怒った風でもなく、かといって笑顔というわけでもなかったが、でもまだどこか照れくさそうな顔のまま言葉を残し、俺に背を向けた。
そんな土浦を、俺は嫌いだとは思えなかった。嫌いではないということは、好きということなのだろうか。いや、そんな単純なことではないだろう。だが、好きではないなら嫌いなはずと、さっきは単純にそう考えた。
俺は土浦を、好きなのか、それとも、嫌いなのか。
どちらでもないという答えはなぜか出したくなくて、下校を知らせるチャイムが鳴るまでずっと頭になど全く入ってこない楽譜を眺めてながら好きと嫌いの間を行ったり来たりグルグルと考えていた。
2015.2
拍手第22弾その5。
想いに気付いて葛藤中
相変わらず無意識状態でまだ気付いてはいなそうな感じですが…。
そして相変わらず土浦君も微妙な態度をとってますよね。
そんな二人が好き♪
というわけで、ゑひもせす、でした。
自分でつけたタイトルとイメージなのに、守れていなかったような…。
難しいイメージではななかったはずなのに、だいぶ難産でした。
拍手第22弾その5。
想いに気付いて葛藤中
相変わらず無意識状態でまだ気付いてはいなそうな感じですが…。
そして相変わらず土浦君も微妙な態度をとってますよね。
そんな二人が好き♪
というわけで、ゑひもせす、でした。
自分でつけたタイトルとイメージなのに、守れていなかったような…。
難しいイメージではななかったはずなのに、だいぶ難産でした。