TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「ゑはさまほしけれど」

 久し振りに高校時代のアンサンブルメンバーで集まる機会があり、俺は土浦とも久し振りに顔を合わせた。
 高校の頃の土浦とは自他ともに認める犬猿の中で、二人で交わす会話といえばいつでも言い合いばかりだった。
 卒業後、やはり今日のように集まる機会があったときもお互い相変わらずな接し方だったのだが、大人になったからなのか、学校というある意味小さな世界からもう一歩先の世界に足を踏み出したからなのか、頭から否定するような態度は徐々に薄くなり、方向性はたとえ違っていても同じ音楽を志す者同士、有意義な会話を交わせるようになっていった。
 俺とは正反対過ぎる土浦の考え方も、思いがけないものだと思って聞いていればとても有意義な意見で、頑なに自分の信念だけを貫き通すことだけが最善ではないのだと俺は考えるようになった。
 だから俺はもっと土浦と話がしたいと思い、みんなと別れた後に別の店へと土浦を誘った。
 断られるかもしれないという不安は杞憂に終わり、その後もいい意味での言い合いはあるものの、和やかな時間を過ごすことが出来た。
 話が盛り上がるにつれて酒のペースも進み、あの日は俺も土浦もそれなりに酔っていたのだと思う。いや、少なくとも俺は酔っていた。
 店を出て、ふわふわとした気持ちのまま肩を並べて歩きながら、土浦とここで別れてしまうことがとても淋しいと思った。もう少し、一緒にいたいと思っていた。
 そう思うとふわふわとしていた気持ちは一転して重いものに変わり、その気持ちを表すように足取りも重たくなる。まるで俺に合わせるように土浦の歩みもゆっくりになり、そして示し合わせたように二人はその場で立ち止まった。
 隣の土浦へと顔を向ければ、同じタイミングで土浦も俺のほうを向いていて、そのまま、なんとなくお互いの視線が交差する。
 酔いのせいか少し潤んでとろんとした目が俺を見ている。俺もまた、同じ目で土浦を見ているのだという自覚があった。
 見つめ合う時間は長かったのか短かったのか。
 だが、不意に冷静な思考に頭の中を支配され、気付けばどちらともなく視線が外れていた。
 そしてまた並んでゆっくりと歩き出せば駅はもう目の前で、じゃあ、という短い言葉を交し合うだけで、俺たちはそれぞれ反対方面へと向かうホームへと別れてしまった。
 あの時間は何だったのだろうか。なぜ急に冷静になってしまったのだろうか。未だにあの日のことを考えてしまうのはどうしてだろうか。
 俺は未だにその答えを探している。浮かんでは消え、消えては浮かぶ気持ちはどこか非現実的で、明確な言葉にならずにまた消えていく。
 そして今日はあの日以来の再会で、土浦とはまだ挨拶と、演奏に必要な最低限の言葉以外は交わしていない。打ち上げと称した店に移動した今も一番離れた席に座っていて、会話の輪の中にお互いは入っていない。
 避けられているのか、それとも意識しているから近寄らないのか。そう考えること自体、自意識過剰のような気もするし、俺はどうなのだろうと考えれば、たぶん後者なのだろうという自覚はある。
 何度か盗み見た土浦の飲むペースは早く、このまま酔ったらどうなるのだろうと思う。
 とろんとした目を思い出すだけで、心音が早くなっていくような気がする。
 いや、酔う前にちゃんと話がしたい。だが、話をすることさえも拒否されたらと、今まででは考えたことのない不安に襲われる。
 このままでは俺が先に酔ってしまう。あぁ、それもいいかもしれない。酔ってしまえば冷静な思考に邪魔されることもないだろう。
 いや、やっぱり土浦を酔わせたい。あの目でもう一度、見つめられたい。そうすれば今度こそ、湧き上がる気持ちに素直になれる気がする。
 そう思ったタイミングでちょうど席を移動してきた先輩に、場所を譲る振りで俺は席を立つ。
 まずはどんな話を振ってみようかと、かつてないほど緊張しながら俺は土浦の斜め前に座った。



2015.2 拍手第22弾その1。
酔わせたくはあったけれど

紅茶の書く月森君にしては珍しく色々考えてしまっている模様。
あ、でも、酔ったい勢いでどうにかしようとかはらしくないかも。