TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「計算通りに行くわけがない」

 基本的に、月森は人の話を聞かない。聞かないというか、自分が思ったとおりにことを進めようとする傾向が強い。
 よく言えば行動が早い。悪く言えば、自分勝手で我侭で強引だ。
 告白だってそうだ。俺の気持ちなんて考えもしないで押して押して押してきた。そうされるのが嫌いなくせに、俺にはある意味強引に迫ってきた。
『君が俺のことを嫌っているのはわかっている。だけど俺は君のことが好きだ。君が俺のことを好きにならなくてもいい。けれど俺に君を想わせてくれ。君のことを好きでいさせてくれ』
 好きになんてなっていたわけじゃなかった。でもそんな風に言われて、それを嫌だと言えないくらいには月森のことを嫌いではなくなっていた。
『嫌なら、もう二度と君の前に顔は見せないから』
 そこまで言われて、俺はとっさに嫌だと叫んでいた。月森の気持ちを受け入れる気なんてさらさらなかったが、月森と会えなくなるのは嫌だった。文句を言い合いつつも、月森の音楽に触れることは手放したくなかった。
『何故?』
 月森は絶対、俺の気持ちをわかっていてそんな風に聞いてくるんだとわかっていてもやっぱり、俺は月森を突き放すことが出来ない。
『嫌いじゃ、ないから』
 俺に答えられたのはそれだけで、だが俺の言葉に月森があまりにも嬉しそうな顔をしたので、そのすぐ後で月森が抱き締めてきたことを、俺は簡単に許してしまった。

 それからというもの、月森の行動は段々と大胆になっていった。一緒に登校しようと家の近くで待たれたり、一緒に練習しようと普通科棟まで誘いに来たり、二人きりになれば臆面もなく好きと告げてきたり…。
 恥ずかしく思っても別に嫌じゃないから強い態度をとれず、俺は月森のそれらをズルズルと許してしまっている。まだ好きにはなっていないはずなのに、月森からのあれこれを許しているこの状況はとても危険な気がする。
 もしも、月森が触れてきたら俺は逃れることが出来るのだろうか。
 告白の日には思わず抱き締めてきたことを許してしまったが、正直、月森に触れられたいとも触れたいとも俺は思っていない。嫌悪とは違うが、抵抗感は拭えない。
 さすがに俺が嫌だと言えば、月森だって俺の気持ちを優先してくれるはずだろう。

 と、ついさっきまでそんな風に思っていた。目の前に月森の顔が迫ってきても嫌だと言えると、俺は本当に疑ってもいなかった。
「嫌か?」
 焦点がキリギリ合う距離から月森に見つめられ、微かに頬に触れた手を、俺は解けないでいる。力なんて全然込められてないのに、月森の手から俺は逃れられない。
 そういう聞き方はずるいと思う。いいかと聞かれればたぶん首を振ることくらいは出来たはずなのに、嫌かと聞かれるとなぜか嫌だと答えられない。
「嫌なら、これ以上は君に触れない」
 嫌いでもいい、好きにならなくてもいいなんて言葉は譲歩している振りだ。嫌ならなんて、俺がそう言わないことをわかっているから言えるんだ。
「好きだ、土浦…」
 本当にずるいと思う。普段は冷めた声をしているのに、こんなときだけ熱っぽい声を出されたら、そんな声で名前を呼ばれたら、勘違いをしてしまう。
「俺、も…」
 考えるよりも前に口に出ていた言葉を、月森はキスでゆっくりと飲み込んでいく。
 好きではなかったはず。触れてほしいなんて思っていなかったはず。俺の計算は、一体何処で狂わされていたのだろうか。



2014.4 拍手第20弾その1。
一枚も二枚も上手だった月森

二人とも恋愛経験値は低そうだけど
月森君は土浦君を落とす術を本能的に知っているような気がします。