TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「つまらない悩み事」

 最近、月森がよくためいきを吐いている。
 疲れているのだろうかと心配して声を掛けても、なんでもないとしか言ってくれない。
 弱さを見せたくないって気持ちは俺にだってよくわかる。だが、何かあるなら頼ってくれればいいのにと思う。
 月森の悩みを俺が解決できるかどうかなんてわからないが、俺に出来ることならなんだって手を貸してやるつもりだ。
 だが、今日もまた月森は一人でためいきを吐いている。
 何か言いたげな視線は送ってくるくせに、なんでもないという顔で視線を逸らし、そしてまたためいきを落とす。
 何か悩んでいるであろう月森に、何もしてやれないことが歯痒くて腹立たしくて、いつの間にか俺までためいきが増えていった。

 何か少しでも俺に出来ることはないだろうかと練習に誘ってみたが、なんだか出会ったばかりの頃のような、どこかちぐはぐとした音色しか練習室に響かない。
 曲が終わっても弾き切った達成感はなく、室内の空気はやけに重い。
 鍵盤から指を下ろし月森を振り向けば、ヴァイオリンを置くそのタイミングで、またためいきを落としている。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ。お前らしくない」
 元々、犬猿の仲だった俺と一緒の演奏なんかつまらなかったというのだろうか。恋人同士になってさえも未だに意見が合わなくて言い合いになるような関係に嫌気が差したとでもいうのだろうか。やっぱり俺のことなんか好きにならなければよかったと後悔しているのだろうか。
 はっきり言えと言ってはみたものの、頭を過ぎったその言葉を月森が口にしたらと考えると、やっぱり聞きたくなんかないと思う。
 そういえば最近、月森は俺に触れてこない。前はもっと、ことある毎に触れてこようとしていたはずだ。
「土浦…」
 名前を呼ばれ、俺は無意識に目を逸らす。気付いてしまった月森の態度に、やっぱり言わなくていいと心の中で叫んだ。
「もう、我慢出来ない…」
 つぶやくような月森の言葉に、思わずぎゅっと目をつぶった瞬間、まるで体当たりされたような衝撃が全身に走った。
 驚きに目を開ければ目の前は淡い白で埋め尽くされている。状態をひねっている体勢も辛かったが、それ以上に背中がミシリといいそうなほどの力に押さえ付けられて痛かった。
「な、何…」
 なんとか顔を後ろに反らして声を出せば、視線の先には赤い布地が見え、それが制服のアスコットタイなのだと気付いてやっと、俺は月森に抱き締められているのだと気が付いた。
「目の前に土浦がいるというのに、抱き締めないでいるなんて俺には無理だ」
 月森の言葉に顔へと熱が上ることは止められなかったが、想像とは逆の状態になり、俺の頭はその状況についていかれない。
「月森、痛い」
 それよりも段々と強くなるその腕の力に、そんなやわな身体はしていないはずなのにつぶされそうだと思った。
 だが、痛みを訴えても放してはくれそうになく、俺は仕方なく力を抜き、月森へと身体を預けるように寄りかかった。
「もしかして、ためいきの原因ってこれか?」
 冷静になればそんな考えが思い浮かぶ。月森から返事はなかったが、黙ったまま腕の力が更に増したところをみると、どうやら図星だったらしい。
「それならそうと早く言えばいいじゃ…」
 そう言いかけ、俺はふと自分が言った言葉を思い出す。
「学院では触れるなと、そう言ったのは君だろう」
 間髪入れず、思い出した言葉と共に月森の反論が返ってくる。
 確かに言った。間違いない。なのに触れてこないと気付いて、俺はショックを受けてしまった。
「あれは、だってお前が…」
 月森のせいにして言い訳を口にするが、触れられたその後のあれこれ思い出して言葉が続かない。
 別に触れられることが嫌だったんじゃない。ただ単に、恥ずかしかっただけなんだ。
 そう気付いて、だから月森の腕の中から抜け出そうともがいてみるが、何処にこんな力がと思ってしまうほどで、簡単には抜け出せない。
「これ以上のことはしないから、しばらくじっとしていてくれ」
 耳元で熱っぽく、だが切実な声を出されたら抵抗なんて出来なくなる。だが、しないという言葉を残念だと思う自分に気付いてしまったらもう、じっとなんてしていられない。
 俺は思いっ切り力を込めて月森を引き剥がし、自由になった腕で今度は俺から抱きついた。
「しないとか言うな、馬鹿…」
 中途半端に腕を上げたまま固まっていた月森が、弾かれたように俺を抱き締める。
 抱き締めて、抱き締められて、その腕が緩んだと思えばキスをされ、それはやっぱり恥ずかしかったが、それ以上に嬉しいと思ってしまった。



2013.5 拍手第18段その1。
バカップルな感じ

バカップルを目指していたはずが、
相変わらずな二人になってしまったかもと思う今日この頃…。
最初にイメージした話とは全然違うものになってしまったので、
いつかリベンジしたいです!