TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「そっけない態度」

 朝、廊下で偶然、土浦とすれ違った。
「おはよう」
 そう声を掛けると返事は返ってきたが立ち止まることはせず、そのまま歩いて行ってしまった。

 土浦を好きだと自覚して、その気持ちを本人に伝えたのは2週間ほど前のことだ。
 その場で断られることも覚悟していたが返事は待って欲しいと言われ、だが待ちきれなくて催促するように告げた2回目の告白で、小さく「俺も」と答えてくれた。
 そのときは今までに見たこともない真っ赤な顔をしていて、俺は更に土浦を愛しいと思ったのだが、あの日以降、土浦の俺に対する態度は始終、そっけないものだった。
 声を掛けても返事は一言か二言だけ。何度か練習に誘ったが、都合が悪いと断られた。
 俺と土浦は元々仲がよかったわけではなく、言葉を交わす機会もそう多くはなかったし、その言葉のやり取りの殆んどが言い合いだった期間のほうが長い。
 だが、俺の気持ちを受け入れてくれてなお同じ態度を取られることに少し、淋しさと怒りと不安が混ざった感情があることは否定出来ない。
 俺が無理やり引き出してしまった返事に、もしかすると土浦は後悔しているのかもしれない。

 昼休み、購買へと向かえば、エントランスの人混みの中に土浦の姿もあった。
 だが俺は、その姿に気付かない振りで目的の購買に向かうことにした。
 声を掛けてまた、そっけない態度を取られるのは少し辛い。
 土浦の気持ちを無視しても無理矢理繋ぎ止めたいと思うと同時に、土浦の気持ちを無視してまで無理矢理繋ぎ止めたくはないと思う。
 相反する気持ちのどちらが本心か自分でもわからないが、わからないなら土浦の気持ちを優先してみようと思う。
 胸に何かが刺さったような小さな痛みを、俺は制服をぎゅっと握り締めることでやり過ごした。

 放課後、練習室の扉を叩く音に振り向くと、そこに土浦が立っていた。
「入ってもいいか?」
 少し遠慮がちな声に了承の言葉を返せば、静かに扉を閉めて土浦がこちらへと向かってきた。
 言葉を交わしたのは朝の挨拶だけで、今日は土浦を練習には誘っていない。
 土浦から少し距離を置こうと思ったタイミングで近付いてこられ、俺は選択ミスをしたのだろうかと思う。
 その意図がわからなくて土浦の行動を目で追えば、少し中途半端な距離でその歩みを止めてピアノに寄り掛かり、そのまま俯くように黙り込んでしまった。
「土浦?」
 声を掛けながら一歩近付くと、身体が小さく震えたのが見ているだけでもわかったが、その場を動く気配はない。
 俺は手に持っていたヴァイオリンと弓をピアノの上に置き、今度は一気に土浦との距離を縮めてそのまま抱き締めた。
「俺の想いは、君の負担になっているだろうか」
 土浦の動揺が腕から伝わってきて、何かを言われる前に口を開き、その返事次第で離さなければならなくなる腕に力を込めた。
「違う…」
 つぶやくようにそう言って、土浦は肩口に顔を埋めてきた。
 とりあえず離さなくてはいいのだと安堵して抱き締めたままでいれば、土浦の手が制服の裾をほんの少しだけ握り締めてきた。
「お前こそ、昼休みに声、掛けてこなかったから…」
 続いたその言葉に、俺はやはり選択ミスをしたのだと気が付いた。
「すまない。君の気持ちを量りかねて、勝手に落ち込んで、君を不安にさせてしまった」
 愛しさを込めてぎゅっと抱き締めれば、裾を掴んでいた手がおずおずと背中に回された。
「俺のほうこそ、不安にさせてごめん。まだ慣れないだけだから、察してくれ…」
 俺の肩口に埋められた、きっとあの日と同じように赤くなっているのであろうその顔を見たいと思うが、察しろと言われた言葉を思い出して止めておいた。
 たぶん、土浦のそっけない態度は本心の裏返しだったのだろう。そう思うと土浦のどんな態度でさえ、愛おしくてたまらなくなる。
「出来れば早めに慣れてくれると嬉しい」
 耳元でそっとささやけば、その耳までもが目の前で赤く染まっていく。
「努力は、する…」
 勢いよく発せられた言葉が、すぐに曖昧で小さなものへと変わってしまったことさえも、今は愛おしいと思う。
「今日は一緒に練習をして、一緒に帰ろう」
 善は急げと土浦を練習に誘えば、小さく、だがはっきりと頷いてくれたことが本当に嬉しくて更にぎゅっと抱き締めた。



2013.3
拍手第17段その6。
付き合い始めたばかりの二人

付き合う前は月森君の態度の方がそっけなさそうですが(笑)
月森君一人称で書きながら、裏で土浦君一人称を
妄想するのが楽しかったです^^

というわけで、わかよたれそ、でした。
いつもと同じ感じが多かったかも…。
ワンパターンでごめんなさい…。