TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「チキンライス」

 見るとはなしについていたテレビのバラエティ番組に月森が見入っていることが珍しくてそっと後ろから盗み見れば、そこには美味しそうなオムライスが映し出されていた。
 卵の半熟加減が絶妙で、おまけにその見た目を引き立てるように当てられている光の効果で余計に美味しそうに見えるのだが、確か月森は半熟卵をあんまり好まなかったはずだと思い出し、じゃあ一体何が気になって見ているのだろうと思った。
 まさか出演者の中に月森の好みの人でもいるのだろうかと考えて少し嫌な気分になり、テレビから視線を外させようと声を掛ければ、月森の興味の先は出演者ではなくやっぱりオムライスだということが判明した。
「オムライスっていうか、チキンライスか…」
 昨日の月森とのやり取りに、思わず思い出し笑いをしてしまう。月森が気になったのは卵が乗る前のケチャップで味付けしたご飯の方で、その理由が子供の頃に食べたお子様ランチだというのだから顔がにやけてしまうのは仕方がないことだと思う。
 それを聞いたときも思わず笑ってしまい、拗ねたように見せられた不機嫌な顔がそのときはなんだかすごく可愛く見えた。その顔に釣られるようにキスなんかしてしまったことまで思い出して少し後悔する。
 おかげで今朝は身体中がだるい。
 それでもこうやって朝食の支度をしているのだから俺も月森に甘いというかなんというか…。おまけに今日のメニューはチキンライスなんだから至れり尽くせりというものだ。
「旗でも立てておいてやろうか」
「さすがにそこまではしなくていい」
 思い付いたいたずらを独り言のつもりで口に出せば即答で否定され、驚いて振り返れば思った以上に近くに居た月森の腕が腰に回り、朝にしては少々激しいキスをされた。
「ヴァイオリンの練習してたんじゃなかったのかよ…」
 いつから居たのかとか、どこから見ていていたのかとか、恥ずかし過ぎて聞けないことの代わりに文句を言えば、月森はそれをわかっているんだかいないんだか微かな笑みを俺に向けてきた。
「なんとなく、誘われたような気がしたんだ」
 そしてまたキスを仕掛けてこようとするから、咄嗟に顔を逸らした。
「せっかく作った飯が、冷めるだろ…」
 色々な意味で恥ずかしくなりながら本心とは少し違う言い訳を口にすれば、月森はまた同じ笑みを俺に向けてその腕をそっと解いた。
「そうだな」
 その余裕そうな表情にムッとしながら月森を押しやって皿への盛り付けを再開すれば、背後で月森が席に付いた気配がする。
 チキンライスを作って月森を驚かしてやろうとか、そんなサプライズな発想をしていた自分がらしくなくて、そして思いっ切り恥ずかしくなってくる。
 顔が赤くなったことを自覚し、そんな顔を月森には見せたくなくて準備をする手がどんどんゆっくりになっていく。とはいえ準備などほとんど出来ているから、これ以上、時間稼ぎのしようがない。
 そんな俺を背後から見ているのであろう月森の視線を感じながら、こうなったらやけだと、旗を立てられない代わりにチキンライスをハートの形に盛ってやった。



2012.11 拍手第16段その1。
あるお泊り後の朝の話

タイトル候補を挙げたときからなんとなく
イメージは頭の中にあったのですが、
そんな形に盛り付けるとは思ってもみませんでした(笑)