TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「今までの苦労はいったい…」

 月森のことを好きだと気付いたところで、想いが通じないことは目に見えていたから口になんて出せないと思っていた。
 叶う望みなどない想い。それでも諦めることさえ出来なくて日に日に募るばかり。
 顔を合わせれば、言葉を交わせば、頭で考えるよりも先に文句の言葉はスラスラ口から出てくるのに、本心はひとつも言葉になることがない。
 本当はその音色に惹かれている。本当はその音楽に対する姿勢をすごいと思っている。本当は好きで好きで、どうしようもないくらい好きになっている。
 必死に本心を隠そうとすればするほど、今はもう思ってもいない言葉が口を吐いて出て行き、そんな本心とは裏腹な言葉が月森の機嫌を悪くさせることをわかっていても止められない。
 今だって、目の前の顔は不機嫌そうに眉根を寄せて俺を睨んでいる。
 少し言い過ぎたと気付いても今更で、ここで謝罪の言葉を口にしても事態は収まるどころか更に悪くなるだけだろう。
 言いたいことは言えず、言わなくてもいいことばかり声に出すなんて、俺は一体、何をやっているというのだろうか。
「だから。本当はお前のこと、好きなんだよっ」
 いい加減、そんな自分に嫌気がさして、こうなったら本心を伝えてやると意気込んで気持ちを声にした。
 向けられるであろう表情が怖くて思わず目を逸らせばその視界が不意に塞がれ、それは視界だけではなく全身が何かに覆われてしまう。
「俺も土浦が好きだ」
 そして耳元から聞こえてきた声に、俺は月森に抱き締められているのだと初めて気が付いた。
 な、なんだって?? 今、なんて言った? っていうか、今どんな状況なんだよ、これ…。
 思わず自分の耳を疑って顔を月森へと向ければ、まるでそれをわかって待っていたような月森の顔が本当に目の前にあってびっくりした。
「いつか君がそう言ってくれればいいとずっと思っていた。だから嬉しい」
 今までに一度だって見たことのない微笑み付きでそう言われ、俺は一気に顔へと熱が集まっていくのを感じて思わず俯いてしまったが、その行動がちょうど月森の肩に顔を埋めるような格好になってしまい、それはそれでどうしようもなく恥ずかしくてどうしていいのかわからなくなってしまった。
「ずっとって…。それならお前から言ってくれればよかったじゃないか…」
 思わずつぶやいたその言葉は、悪態というよりはなんだか甘いものを含んでいるように感じて、自分で言っておきながら余計に恥ずかしくなってくる。
 ずっと、必死に隠してきた苦労はなんだというんだ。このもやもやする気持ちをどうしてくれようか。
「そうだな。もっと早く、こうして抱き締めたかった…」
 だが、まるで大切なものみたいにぎゅっと抱き締められて、とりあえず今は叶うはずのない想いが叶ったことを素直に喜んでおこうと、俺も月森の背に腕を回してぎゅっと抱き締めた。



2012.10 拍手第15段その1。
(やっとの思いで告白したときに貰った返事とは?)

嗚呼、ワンパターン。
嗚呼、土浦君が超乙女!!
と、読み返して思いましたが、続行させました。