TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「zizz」

 ヴァイオリンを机の上に置き、詰めていた息をそっと吐き出した。
 どうしても納得のいく音色が出なくて、何度も何度も繰り返し同じところを弾いていた。
 疲れたわけではなかったが、少し、根を詰めすぎたかもしれない。
 椅子を引き寄せて座り、楽譜を手に取る。
 そこに並ぶ音符を目で追えば、頭の中には綺麗な音色が流れてくるのに、俺のヴァイオリンはその音色を奏でてはくれない。
 いや、俺がその音色を奏でさせてやることが出来ない。
 小さくためいきを落として椅子の背へと身体を預ければ、土浦の弾くピアノの音色が心地よく聞こえてきた。
 その音色は相変わらず感情的で、人の心を押しつぶしてしまいそうな切なさを伝えてくる。
 好きになれないと思っていたはずの音色なのに、今ではまるで沁み込むように俺の心を震わせる。
 ずっとその音色の中に浸っていたいと思い、俺はそっと目を閉じた。

 包まれるような音色が愛おしくて、俺はその音色をそっと腕に抱き締めた。

 聞こえるピアノの音色よりも更に心へと響く音が聞こえ、俺はそっと目を開けた。
「月森、そんなところで寝てると風邪ひくぞ」
 ぼやけてハッキリしない視界に何度か瞬きを繰り返せば、ピアノを弾いていたはずの土浦が俺の顔を覗き込んでいる。
 俺は目を開けるまで土浦の音色を聴いていたはずで、なぜ目の前にいるのだろうと思う。
「土、浦…?」
 声を掛ければ目の前に何かを差し出され、受け取ってみればさっきまで見ていたはずの楽譜だった。
「足元に落ちてたぜ。ずいぶん、難しそうな曲を弾いてるんだな」
 その言葉に俺は自分がおかれている状況を考え、そしてうたた寝していたらしいことに気が付いた。
「俺は、寝ていたのだろうか」
 それを確認しようと質問に別の質問で返せば、土浦は驚いた顔を見せ、そして笑い始めた。
「おいおい、寝惚けてるのか。お前、気持ちよさそうに寝息立ててたぜ」
 言いながら土浦はピアノへと戻り、また音色を奏で始めた。
 それはさっきのように切なさで溢れてしまいそうなものではなく、優しく流れるような旋律だった。

 まるで眠りへと誘うようなその音色を目をつぶって聞いていれば、抱き締めたぬくもりを思い出した。
 それは夢とは思えないほどに、腕の中に残っている。
 そのぬくもりの正体を求めて目を開ければ、土浦がピアノを弾いている姿が目に映る。
 優しい音色を奏でるその指に、鍵盤を見つめる優しいその表情に、目が奪われる。
 うたた寝の間に見るものは、夢とは限らないのかもしれない。

 ゆっくりと近付いてそっと抱き締めれば、腕に残るぬくもりと同じあたたかさを感じる。
「おいっ…」
 演奏を中断されたことに文句を言おうと振り返る土浦の唇を、俺はその言葉ごと塞いでしまうことにした。



2011.5
拍手第13段その7。
zizz(うたた寝)

zizz(うたた寝)

最後はちょっと甘めな感じを目指してみました。
このあとの二人が気になりますね!
(いつもいいところ切りなので…)

というわけで、TUVWXYZ、でした。
独白多め、会話は甘く…って感じになりました。
候補が少な過ぎて悩み、多過ぎても悩み、
タイトルを考えるのがちょっぴり大変でした^^;