TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「xxx」

 友達から自慢げに見せられた彼女からの手紙には、文末に xxx と書かれていた。
 その x が示す意味を俺は知らず、何をそんなに自慢しているのだろうと思ったが、その意味を聞けばなるほどなと思う。
 あまり馴染みのない、けれどその暗号めいた言葉から伝わる気持ちが嬉しいのだろう。

 その夜に届いた月森からのメールを読めば、昼間、見せられた手紙に比べてやけにあっさりした言葉が並んでいる。
 メールにしても電話にしても、俺たちはあまり言葉にして気持ちを伝え合わない。
 口にしたのは告白を含めても、両手で足りるほどかもしれない。
 自分もそうなのだから月森に対して不満はないし、言葉にしなくても気持ちはちゃんと伝わっている。
 それでも友人の嬉しそうな顔を思い出せば、たまには伝えるべきなのだろうかと考えてしまう。

 返信のメールを打ちながら、目の端には x のキーがずっとチラついている。
 入れてみたところでその意味を月森が知っているとも思えず、突っ込まれても困るし、もしも知っていたらそれはそれで恥ずかしい。
 しばらく悩みながら、月森からのメールをなんとなく繰り返し読んでみる。
 次の演奏会が決まったことを知らせるメールはこれまでにも何度ももらっていて、特に変わったことは書かれていない。
 そして予定は空けておくと返す俺の文面も、それ以外に報告する内容があるわけではなくいつも通りだ。

 じゃあまたと文章を結び、もう一度 x のキーを見つめた。
 無意識に唇へと触れてしまったのは、その文字が示す言葉を思い出したからかもしれない。
 触れたいと、触れてほしいと思う。
 そして月森に会いたいと、そんな想いが溢れてきた。
 言葉にしないだけで、その気持ちはいつだって心の中にあった。

『演奏会を、月森に会えることを楽しみにしてる』
 俺はいつもの文章にその言葉を書き加え、月森の顔を思い浮かべながら送信ボタンを押した。



2011.5
拍手第13段その5。
xxx(キスキスキス)

どちらもそんな言葉は手紙に書かないだろうけど、
もしも書くならきっと、ちゃんと言葉にするんだろうなって思いました。