『音色のお茶会』
「identity」*Yui様リクエスト&タイトル*
「この前のコンクールの演奏、聴かせてもらったぜ。相変わらず正確で楽譜通りの演奏だったな」「俺も君の演奏会に行かせて貰った。感情的な演奏で観客の心を掴むのだけは上手いようだな」
技術で聴かせる月森の演奏は、コンクールに出れば高い確率で優勝を勝ち取る。
感情で聴かせる土浦の演奏は、クラシックしてはめずらしい数の観客を集める。
「たまにはもう少し違う演奏をしてみようって思わないのかよ」
「コンクールでは必要ないだろう。君こそもう少し感情を抑えた演奏をしたらどうだ」
「それこそ、俺が弾いているのはコンクールじゃないからな。堅苦しい演奏なんて必要ないんだよ」
異なる演奏手法の二人は性格も考え方も真逆で、音楽に対する言い争いは絶えることがない。
コンクールでも演奏会でも、評価は全くと言っていいほど正反対だ。
「確かに、土浦の演奏から感情を取ったら何も残らないな」
「お前は技術だけが取柄のつまらない演奏しかしないくせに」
月森には月森の音楽があって、同じように土浦には土浦の音楽がある。
自分が信じる音楽で、それぞれがそれぞれの場所で活躍している。
「演奏会ならともかく、技術と能力を競い合うコンクールで自分の力を発揮できなければ意味がない」
「じゃあ、演奏会での演奏は違うものだとでも?」
「共演者がいるときは、きちんと合わせるように変えて弾いている」
次から次へと出てくる言葉の応酬はいつものことで、それは止まることを知らない。
自分との違いなど、それこそ探さなくても十分過ぎるほど知っている。
「あの演奏で、よくそんなこと言えるな。合わせて貰ってる、の間違えじゃないか」
「誰と弾いても合わせる気がないような演奏しかしない君には言われたくない」
「俺はいつでも最高の演奏をしたいと思っているだけだ」
「それは俺も同じだ。だからいつでもベストを尽くせるように毎日の練習で技術を磨いている」
「だから、技術だけじゃ伝わらないものもあるだろう。伝えるのは心なんだから」
二人の音楽性にはどうやっても相容れない溝があり、それを埋める気は二人にはない。
否、それがお互いの音楽なのだとわかっているから、埋める必要は全くない。
「だが、それは俺のやり方ではない。それでも、君がそのやり方で演奏会を成功させたことは称賛する」
「俺も、優勝者の出ないこともあるコンクールでのお前の優勝は、すごいって思ってる」
「君も近いうちにコンクールに出るんだろう。俺はいつでも君の演奏を期待している」
自分と違うから反発する。でも、自分と違うからこそ惹かれる。
違う音色だからこそ、どちらが優位に立つこともなく、いつまでも対等でいられるのかもしれない。
2011.2
拍手第11段その2。
identity(独自性)
リク内容は「お互いの違いに反発しつつも、
認め合っているLR」でした。
文章中に書いた溝ですが、埋めずに飛び越えるのが
この二人なのかなぁって、書きながら思いました。
拍手第11段その2。
identity(独自性)
リク内容は「お互いの違いに反発しつつも、
認め合っているLR」でした。
文章中に書いた溝ですが、埋めずに飛び越えるのが
この二人なのかなぁって、書きながら思いました。