TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

「happy-go-lucky」

「なんだよ、大きなため息なんてついて」
 誰にも見られていないと思っていたためいきを見咎められ、不意に背後から声を掛けられた。
「土浦…」
 振り返ればそこに、どこか楽しそうな顔をした土浦が立っていた。
 原因は君だと、心の中で悪態とためいきをもう一度つく。
「悩み事か? 話したいっていうなら、聞くぜ」
 言い争うばかりだった俺たちも、今ではそれなりに普通の会話も交わすようになった。
 自分を偽ることなく本音で話が出来る土浦との会話は意外にも気が楽でいい。
 そう思って話をしているうちに、俺は別の感情にも気付いてしまった。
 俺はたぶん、土浦が好きだ。
 気が楽なのではなく、会話そのものが楽しく、話が出来なかった日などは少し淋しいとさえ思う。
「別に、君に話すようなことではない」
 けれど想いを口に出すことなど出来ず、口から出るのはいつも通りのそっけない返事だけだった。
「まぁ、それもそうだな」
 俺の言葉に、気にした風でもなく笑う土浦の顔はいつもと変わらない。
 俺の心の中だけが、全く違う方向へと勝手に動いてしまっただけだ。
「でもお前、気を抜けとまでは言わないが、たまには息抜きも必要なんじゃないか」
 そして、心配されているのだと誤解したくなる言葉と表情を向けてくるから困る。
 本人にそんなつもりはないのだろうと思うから、俺はためいきを落とすことしか思い付けない。
「考え事の答えが巧くまとまらないだけだ。こんなとき、君ならどうする?」
 ため息交じりに答えて思わずそんな風に聞いてみれば、少し驚いた表情を向けられ、そして笑われた。
「月森もそんな風に悩むこと、あるんだな」
 笑われれば気分がいいものではなく思わず睨んでみたが、土浦はその笑いを隠そうともしない。
「当たり前だろう。俺のことを何だと思っているんだ」
 悩む時間がもったいないから答えは早く出すようにしているが、何もかもを即決出来るわけではない。
 今回のように、相手がいることならば尚更だ。
「それで、君ならどうするんだ?」
 土浦の笑い声は止まったものの、まだ肩が震えている。
 けれどその顔はとても楽しそうで、原因が俺なのだと思えばなんとなく許してしまえる気にもなった。
「どうって言われても、どんなことで悩んでいるかで答えは変わるだろう」
 笑い過ぎて出たらしい涙を拭いながら、少し困ったような返事が返ってきた。
 確かにそうだとも思ったが、何を悩んでいるかなど言えるわけもない。
 もしも口にしたら、土浦も同じように悩むのだろうか。それとも即答で嫌な顔をされるのだろうか。
「でも、そうだな…。とりあえず前に進んでみるかな、俺は。それでもダメなら、成り行きに任せる」
 そう言われ、行動を起こせないから困っているのだと心の中で思った。
 もしもうまくいかなかったときのことを考えると、更に行動を起こそうとは思えなくなる。
「成り行きに任せてもダメだったときは?」
 更に質問を続ければ少し考えるような素振りを見せられたが、すぐに笑顔へと変わった。
「そのときはそのときだ。諦め切れなければもう一度挑戦するし、引きずりたくないならすっぱり諦める」
 そう言って笑う土浦を強いと思い、何もせずに立ち止まる自分を情けないと思った。
 俺は気持ちに気付いてから、まだ一歩も動いていない。
「でも本当に、人の意見を聞くなんて月森らしくないよな」
 そう言ってまた笑い始めた土浦に、俺は一歩近付く。
「そうだな。まずは一歩、進んでみようと思う」
 更にもう一歩近付いて、手を伸ばせば触れられる距離で土浦を見つめた。
 好きだと、そう告げたら土浦はなんと答えるだろうか。
 それが自分らしくないのだとしても、たまには成り行きに任せてみるのも悪くないかもしれない。



2011.2 拍手第11段その1。
happy-go-lucky(成行き任せの)

気持ちを自覚したあとのぐるぐるとした状態は
もう何作も書いていますが…。
書きやすくて好きなのですよね~。