『音色のお茶会』
「晴天の空に雲がかかる」
それは本当に突然の出来事だった
あの日、俺は朝からやけに機嫌がよかった。
別にこれといって特別なことがあった訳でもないが、テストの点が思いの外よかったとか、応援しているサッカーチームが連敗を脱出したとか、作ったきんぴらごぼうがやけに好評だったとか、そんな小さな出来事が重なっていたからかもしれない。
朝練ではシュートが綺麗に決まり、昼休みのバスケットでは火原先輩にも加地にも圧勝した。
たぶん絶好調っていうのはこういうことなんだろうと浮かれていたときに、それは突然やってきた。
「好きだ」
腕を掴まれ、告げられたその一言
俺に向けられた、真っ直ぐで真剣な瞳
突然過ぎて訳がわからない。
好きって、誰が誰を? お前が俺を? 月森が俺を、好き?
いやいやいや、それはありえないだろう。っていうか、ある訳がない。
聞き間違いに決まってる。そうじゃなかったら勘違いだ。
そんな俺の一生懸命な思考回路なんてお構いなしに、返事は急がないからと、そう言って掴んでいた手が離れた。
そして何事もなかったかのように俺に背を向け、さっさとヴァイオリンの準備を始めている。
何かを言い返そうと口を開きかけたところに遅れていた日野が慌てた様子で入ってきたから、俺の言葉は声にすることが出来なかった。
もしも言葉に出来ていたら、俺は一体、何と言っていたのだろうか。
よく晴れた空を、大きな雲が覆い隠そうとしている
2010.6
拍手第9段その1。
天気でいえば、晴れのち曇り。
一応続き物の、第1話です。
拍手第9段その1。
天気でいえば、晴れのち曇り。
一応続き物の、第1話です。