『音色のお茶会』
「嘘」*みときち様リクエスト&タイトル*
携帯の電源を入れると、月森から届いたメールがビックリするくらい溜まっていた。月森が仕事でウィーンに行っているときは電話よりもメールのやりとりの方が多くなるが、こんなに大量のメールが届いたのは初めてだった。
何かあったのかと思い一つ一つ読んでいけば他愛のない文章で、特に緊急性のあるメールはなく、別に返信を待つような文面も書かれていなかった。
仕事の都合で半日くらい連絡は出来ないからと、そう月森には伝えてあった。にも拘らずこのメールの件数は何だというのだろうか。いや、もしかすると、連絡が出来ないなどと言ってしまったからこその件数なのかもしれない。
連絡の取れなかったその時間、俺は仕事をしていた訳ではなかった。遊んでいた訳ではないし、最終的に仕事に繋がることには間違いではないのだが、でも俺は月森に本当のことを言っていなかった。
つまり俺は月森に隠し事をした。それはつまり、月森に嘘を吐いたことになるのかもしれない。
きっと月森は、そんな俺の態度を見抜いていたんだと思う。だからこんなにもたくさんのメールを送ってきたのだろう。
ほんの少し驚かせたかった。ちょっとしたいたずら心だった。だが、月森を不安にさせるなんて思ってもみなかった。
俺はなんて浅はかだったのだろう。
とにかく謝りたくて、月森へと電話を掛けた。今日の予定は知っている。この時間、月森はホテルに戻っているはずだ。
『土浦…』
ワンコールも鳴らないうちに、月森は電話に出た。
「あ、あの…」
その早さと沈んだような声に驚いて、俺は思わず言葉を失ってしまった。
『土浦、すまない。あんなにメールを送って…。俺は…』
「俺の方こそ、悪かった。俺、お前に嘘を吐いた…」
そして月森の口から出た謝罪の言葉に、ハッとなって口を開いた。
月森は何も謝る必要なんてない。謝らなくちゃいけないのは俺のほうだ。
「連絡出来ないなんて言って、お前に変な心配を掛けた。直接謝りたいんだ、このドアを開けてくれないか…」
携帯電話を握り締めたまま、俺は開けてくれという思いを込めながらドアに額を押し当てた。
『え…?』
小さなつぶやきの後、ほんの少しの間が空いて鍵の外れる音がする。額を離し一歩下がったと同時に、目の前のドアが勢いよく開く。
「土浦…」
そこから、同じように携帯電話を握り締めたままの月森が顔を出した。
「月森、ごめ…」
言い終わらないうちに、ドアの内側へと引き込まれるように抱き締められていた。
その力は強く、俺は抱き締め返しながら、もう一度ごめんとつぶやいた。
2010.1
拍手第6段その1。
嘘をつくつもりなんか、なかったんだ。
土浦君のことだからこそ何かを察したらしい月森君。
そんなに察しがいいとは思ってもみなかった土浦君。
リク内容は「社会人LRで、土浦がなんらかの理由で
不本意な嘘を月森につく話」でした。
拍手第6段その1。
嘘をつくつもりなんか、なかったんだ。
土浦君のことだからこそ何かを察したらしい月森君。
そんなに察しがいいとは思ってもみなかった土浦君。
リク内容は「社会人LRで、土浦がなんらかの理由で
不本意な嘘を月森につく話」でした。